2018年12月号
特集
古典力入門
  • 俳人夏井いつき

俳句は人生を楽しくする

いま、俳句が国民的なブームを呼んでいる。その火つけ役となったのが、俳人・夏井いつきさんである。俳句経験ゼロの素人の句を添削し、見事な句に変えてしまう様はテレビでもお馴染みだろう。その夏井さんに俳句の楽しみ方、味わい方などを語っていただいた。

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俳句ブームにスイッチが入った

テレビのバラエティ番組『プレバト!!』の俳句コーナーをご覧になった方もいらっしゃることでしょう。私がこのコーナーを担当するようになって丸4年。最初は、芸能人が俳句に触れるという独自性、意外性を狙った単発の企画でした。
 
しかし、芸能人の皆さんが詠んだ俳句を、私が解説を交えながら添削して別の17音に生まれ変わらせると、思わぬ反響がありました。私の辛口のコメントも意外性の一つだったようで、一回だけのオファーだったはずが、ここまで回を重ねることになりました。
 
最初に『プレバト!!』で俳句を取り上げてもらった時、司会の浜田雅功まさとしさんがテーブルを何度も叩きながら「俳句、おもろ、俳句、おもろ」と笑い転げていた姿がいまも大変印象に残っています。
 
私はいつもの句会の調子で「駄目よ、これ」「ここがもう清々すがすがしく下手だよ」とコメントし添削していただけだったのです。ところが、まったく俳句を知らない人たちには、それがとても新鮮に映っていたのです。
 
私たちにとっては当たり前のことが、俳句を知らない人には全く普通ではなかった。この番組を続けてきて、私が強く感じているのはそのことです。
 
俳句とは上品なもの、赤い毛氈もうせんの上で筆で短冊にサラサラとしたためなくてはいけないといったような、いわば世間様の間違った思い込みと、テレビで見る俳句のイメージとのギャップが、いまの俳句ブームのいいスイッチになったのではないかと思っています。
 
少し前までは俳句の本は売れないというのが出版界の相場でした。自費で句集を出し、欲しいとも思わない人に配って歩く、というのが俳人にとっては宿命のようなものでしたが、昨今の俳句ブームはその常識をも変えました。ありがたいことに私が最近出した入門書は年齢を問わず幅広い層に読まれていますし、何100という人たちが一斉に俳句を楽しむ「句会ライブ」に足を運ぶお客さんの層や質も大きく変わってきました。
 
おかげで私自身も句会ライブ、講演、メディアへの出演などで全国での俳句の種まき活動ができるようになってきました。
 
一人の俳人として、松山を中心に30年以上、俳句の種まきを続けてきたことが、いまこのような形で花開いていることを思うと感慨もまた一入ひとしおです。

俳人

夏井いつき

なつい・いつき

昭和32年愛媛県生まれ。8年間の中学校国語教諭を経て、俳人へと転身。俳句集団「いつき組」組長。平成27年「俳都松山大使」に就任。『プレバト!!』の俳句コーナーをはじめ多くのメディアに出演。著書に『世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)『寝る前に読む一句、二句』(ワニブックス)など多数。