2025年1月号
特集
万事修養
  • 日本ロゴセラピスト協会会長勝田茅生

人生のどんな状況
にも意味がある

私がフランクルに学んだこと

「生きる意味」が分からない、と悩んだ経験がある人は少なくないだろう。そのような状況で、自分が人生から何を期待するかではなく、人生が自分に期待しているものに目を向けよ、と説いたのが、先の大戦でナチスの迫害を生き抜いた精神科医・フランクルだった。その精神療法を日本人で初めて受け継いだ勝田茅生さんが現代に伝えるメッセージ。

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「意味」を軸にして生きるということ

ウィーン出身の精神科医ヴィクトール・E・フランクル。第二次世界大戦下、故郷を遠く離れた強制収容所に送られ、絶望的な状況から奇跡的な生還を果たしました。その壮絶な体験をつづった『夜と霧』の著者として、彼をご存じの方は多いでしょう。

この本の印象から、厳格な人物だったと考えている方もいます。ただその素顔は、とにかく楽観的でユーモアにあふれる人でした。

過去に耐え難い苦悩を味わってなぜそのような生き方ができたのでしょう。

彼は〝引き潮のがんしょう〟のたとえ話を残しています。満潮の時には見えない海中の岩礁は、引き潮の時に現れることがあります。この岩をトラウマや悲しい思い出だとしましょう。心が満たされていない時には、頭の中にそればかりが姿を現すのです。結論から言うと、人が不快なことをあれこれ考え、うつうつとしてしまう原因は、岩礁があるからではない。潮が満ちていないことが原因なのです。

では、どうすれば海の潮を満たせるか。それはいま、自分に求められている意味のある課題や役割に気づき、それを責任をもって実現させることです。

彼が確立したロゴセラピーは、まさにそれを目指した心理療法です。「ロゴ」は古代ギリシア語のロゴスに由来し、一般的には言葉・論理・理想などと訳されます。フランクルはこれを「意味」と読み、ロゴセラピー(意味を軸にした治療)と名づけました。

では意味はどのように捉えられるのでしょうか? 例えば神社で「宝くじに当選させてください」と願うのは、「自分だけに良かれ」と頭の中で捏造した意味です。それに対して本当の意味というのは、「自分以外の多くの人たちにとっても良かれ」と、普遍的なひろがりを持つものなのです。

このような価値ある意味を精神次元で捉え、自らの行動で実現していくうちに、悩む人のこころは満たされ、露わになっていた岩礁、つらい思い出はいつの間にか潮の中に消えていくはずなのです。

日本ロゴセラピスト協会会長

勝田茅生

かつた・かやお

1945年静岡県生まれ。1970年上智大学文学部哲学科修士課程修了後、ミュンヘン大学博士課程入学。1976年児童音楽教育指導の資格を取得。2000年日本人で初めて南ドイツ・ロゴセラピー研究所公認ロゴセラピストとなる。主著に『ロゴセラピーと物語:フランクルが教える〈意味の人間学〉』(新教出版社)『ヴィクトール・フランクル それでも人生には意味がある』(NHK出版)。