2026年7月号
特集
続けてこそ道
一人称
  • 心と遺伝子アカデミー代表堀 美代

村上和雄先生に
学んだ
スイッチ・オンの生き方

遺伝子工学の世界的権威にして、人智を超えた働き「サムシング・グレート」の存在に目を向け、私たちに生命の神秘さと生きるべき道筋を示し続けた村上和雄先生。生命科学研究に従事すること60余年。その過程で辿り着いた珠玉の教えは、没後5年を迎えたいまなお色褪せることはない。17年間村上先生と研究を共にしてきた堀 美代さんに、未踏の地平を拓いた村上先生の研究人生、人間の秘める可能性を開く秘訣を伺った。

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    心と遺伝子アカデミー代表

    堀 美代

    ほり・みよ

    昭和37年鹿児島県生まれ。九州大学、筑波大学生命環境科学研究科博士課程卒業。製薬会社、ベンチャー企業の研究員を経て、平成16年より公益財団国際科学振興財団バイオ研究所にて村上和雄先生の下で研究に従事。現在は心と遺伝子アカデミー代表、筑波大学非常勤研究員兼務。

    村上和雄

    むらかみ・かずお

    昭和11年奈良県生まれ。38年京都大学大学院博士課程修了。米国バンダビルト大学助教授などを経て、53年筑波大学応用生物化学系教授に就任。58年には昇圧酵素「レニン」の遺伝子の全暗号解読に初めて成功。遺伝子工学の分野で世界をリードした。平成8年日本学士院賞を受賞。11年筑波大学を定年退官したのちに参加したイネゲノム解読の国家プロジェクトで、遺伝子の完全解読を世界に先駆けて成功させた。23年瑞宝中綬章受章。令和3年4月13日逝去。著書に『スイッチ・オンの生き方』『人を幸せにする遺伝子の法則』(いずれも致知出版社)など多数。

    研究者であり続けた85年の生涯

    村上和雄先生が亡くなられて、早くも5年の歳月が経過しました。しかし、17年間研究を共にしてきた私はいまなお先生の存在をとても身近に感じています。

    先生は遺伝子工学の第一人者として、心のあり方が遺伝子の働きに影響を及ぼすというメッセージを私たちに送り続けてくださいました。先生が心と遺伝子の関係を証明するために「心と遺伝子研究会」を設立した2002年頃は、科学者が心をテーマに扱うことは敬遠される面もありました。ただ、年月が経つほどに、先生が遺された言葉の意味が少しずつ理解されつつあるように思います。そう考えると、先生は先の時代を見据えておられたのだと実感します。

    先般、致知出版社から『スイッチ・オンの生き方』の新装版、絶筆となった連載「生命科学研究者からのメッセージ」を書籍化した『人を幸せにする遺伝子の法則』が刊行されました。これらを読み終えて改めて感じたのは、先生は一貫して、人の可能性を信じ続けておられたということです。

    「人間には、まだ眠っている素晴らしい力がある」。不安や分断の多い現代だからこそ、先生の言葉は以前にも増して多くの人の心に響くのではないでしょうか。

    村上先生が天寿をまっとうされたのは2021年4月13日でしたが、実はその数日前、先生とディスカッションをしながら1年掛けて執筆した英語の書籍をお渡ししたばかりでした。亡くなる2日前にも、今後の研究についてお電話で話し合いました。「今度会ったら、またディスカッションしましょう」。電話口のこの言葉が、先生との最後のやり取りになるとは思いもしませんでした。

    奥様の百合子様から訃報を受けてすぐに駆けつけると、先生は実に穏やかな表情を浮かべられていました。これは後日奥様から聞いたのですが、不思議なことに部屋に飾っていた時計が先生の亡くなられた時間でピッタリ止まったままだといいます。天の計らいを感じずにはいられません。人生の最期のひと息まで研究の道を探求した、まさに研究者であり続けた85年の生涯でした。

    先生は生前、「今後も研究と普及活動は続けてほしい」との意向を示されていました。研究に関しては筑波大学の山田一夫教授の研究室が継続くださっているものの、村上先生の思いを伝承するにはどうすればいいのか。ふと脳裏をよぎったのは、コロナ前の出来事です。

    「遺伝子のスイッチをオンにする方法を伝えるセミナーを開きたい」と先生にご相談したところ、「ぜひやりなさい」と背中を押してくださいました。ところが、コロナ禍によってやむなくとんしていたのです。いまこそセミナーを開くべき時だと決意し、「心と遺伝子アカデミー」を立ち上げました。

    顧問として奥様に温かいご支援をいただきながら、セミナーや講演を行っています。先生はいつも「僕はサムシング・グレートのメッセンジャーだ」とおっしゃっていましたが、私は村上先生のメッセンジャーだと思っています。先生から受け取った教えを次世代へ伝えていく。それが私の使命です。