2020年7月号
特集
百折不撓
インタビュー①
  • 棋士木村一基

努力と情熱は
決して自分を裏切らない

2019年9月に行われた第60期王位戦を制し、46歳3か月で初のタイトル獲得を果たした棋士・木村一基氏。息長く活躍し、諦めることなくタイトルに挑戦し続けてきた木村氏は「中年の星」と呼ばれ、多くの人たちに希望と感動を与えている。木村氏が語る将棋一筋の歩み、そして座右の銘である「百折不撓」に込めた思いが教える人生・仕事を導く要諦——(写真:王位就位式にて、日本将棋連盟の佐藤康光会長(左)から王位杯を授与される木村氏)。

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    史上最年長でタイトル獲得

    ——2019年の9月に行われた第60期王位戦で、木村さんは29歳の豊島将之とよしままさゆきさんを破り、46歳3か月で初のタイトル獲得を果たしました。これは、有吉道夫9段が1973年に棋聖きせい位を獲得した37歳6か月を大幅に更新する史上最年長記録だそうですね。

    王位戦は結局、7番勝負になりまして、3か月くらいかけて戦ったわけです。最終局が終わってまず感じたのは、「ああ、終わった」という安堵あんど感です(笑)。豊島さんへの対策は繰り返し練って臨みましたから、出すべきものは出し尽くしたという感じでした。タイトルを獲得した嬉しさはかなり後になって実感しましたね。

    ——豊島さんは若手の中でも、特に注目を浴びている棋士きしです。対局は厳しいものになりました。

    豊島さんはいま最も充実しているといってもいい棋士ですから、当然厳しい勝負になることは予想していました。弱点を突こうと思っても、まあ、ないんですよ(笑)。こちらのほうが弱点が多い。最初は豊島さんの得意な戦法を避けようと頑張っていたのですが、ものの見事にやられてしまった。結局、相手の得意な戦法を受けて、それを上回るような形で戦わざるを得ませんでしたから、大変厳しい、きつい勝負でした。

    ——3か月に及ぶ勝負を分けたものは何だったと思われますか。

    なぜ勝てたのか、何が勝負を決したのか、自分でもよく分かりません。4年前にタイトルに挑戦して負けた時、もう40歳を過ぎているし、現状を維持することの大変さも実感していたので、今回が本当に最後のチャンスだろうとは思いました。ですから、とにかくまず自分の力を出し切ろうと考えていましたね。
    その点、今回の挑戦はやるべきことはすべてやったと開き直っていたというか、これまでと比べても淡々としていた、一手一手落ち着いて考えることができたとは思います。ただ、やはり、いろんな要素がうまく重なったという感じがしていまして、実力で勝てたかどうかは疑わしいです(笑)。

    ——40歳を過ぎてもタイトルに挑戦し続ける木村さんは、将棋ファンから期待と親しみを込め、「中年の星」と呼ばれてきました。

    そう呼ばれるのは大変照れくさいですが、大変名誉なことであるとも思っています。ただ、肝心なのは、タイトルを獲得した後です。やはり、同じ成績を維持していくことは難しいですから。
    これからも、決して浮かれず努力を続け、結果を残すことで、一所懸命に頑張れば何歳になっても必ず実を結ぶんだということを示していければと思っています。

    棋士

    木村一基

    きむら・かずき

    昭和48年千葉県生まれ。23歳でプロ入り。平成17年に初のタイトル戦となる竜王戦に挑戦する。それを含め計6回のタイトル戦に挑むも全敗。令和元年の王位戦にて46歳3か月で初タイトルを獲得し、最年長記録を更新。師匠は故・佐瀬勇次名誉九段。