2023年12月号
特集
けいたいに勝てばきつなり
インタビュー③
  • 阿部クリニック院長阿部憲史

運命を背負い、
最高の人生を模索する

山形市で阿部クリニックを開業している精神科医・阿部憲史氏は、学生時代、ラグビーの試合中に頸椎を骨折し、以来、車椅子生活を続けている。首から下の機能を失うというハンディにも挫けず、医師国家試験に合格。残された見る、聞く、話すという機能を最大限に生かして患者さんに向き合う日々だ。「真っ直ぐに、ひたすらに」をモットーに歩み続ける阿部氏にこれまでの歩みや信条をお聞きした。

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目、耳、口の機能を精いっぱい使って

──厳しい逆境を乗り越え、精神科医として活動される阿部先生の人生を知り、お話を伺えることを楽しみにしてきました。

ありがとうございます。ご覧の通り私は手足がまったく動かずに車椅子生活をしている四肢障碍者しししょうがいしゃです。四肢障碍は声が出しにくかったり、何かと体がしんどいんです。質問に対して、どこまで頭の中で整理しながらお話ができるか、少し不安でもあるのですが、精いっぱいお答えさせていただきます。

──まずはクリニックのことについてお話しいただけますか。

1996年、37歳の時に精神医療のクリニックを開業して、今年(2023年)で27年を迎えます。外来の患者さんを1日に50人ほど診察しています。建物内は診察室1つと待合室1つ、あとは駐車場のみの、〝日本一小さなクリニック〟だと思っていますけれども、すぐ近くにある山形大学医学部附属病院の精神科と比較しても、クリニックの雰囲気、患者さんをやす力のレベルは下げないよう心がけているんです。
最近、私の生活のお世話をしてくださるヘルパーさんと「阿部クリニックの特徴は何だろう」という話をしました。手足が動かなくて、カルテや処方箋しょほうせんも看護師に書いてもらって、パソコンも打てない。そんな院長のいるクリニックはどんな存在だろうかと。
もちろん、私個人としては患者さんの病気を治し社会に復帰させること、自信を持って自分らしい人生を歩んでいただきたいと願っていますが、診察で私にできることは見ること、聞くこと、話すこと。その機能を精いっぱい使って、患者さんをじっと見ているんです。

──患者さんを観察される。

患者さんが増えてきたいま、お一人お一人に向き合う時間は5分から10分程度です。その間、診察室に入ってから出るまで患者さんの顔から目を離すことはありません。表情や顔色を見続けて、症状や気持ちを探る。そのことにかけては日本一かなと思います。ある意味、自身のマイナスがプラスになっているわけです。
クリニックの院長以外の仕事でいえば、地元の小中高校の学校医、障碍者施設の苦情解決委員、それから「介護の未来を考える会」の代表を務めています。この会は8年ほど前に、私と数人の仲間で立ち上げました。私自身、訪問介護を受ける立場の一人として訪問介護のスタッフ不足、待遇改善などの課題を痛感してきましたので、これらの解決に向けて働きかけを続けています。人が在宅でいきいきと自分らしく生きるためにも、訪問介護スタッフの存在はとても大切になってくるんです。

阿部クリニック院長

阿部憲史

あべ・けんし

昭和34年山形県生まれ。57年東北大学工学部卒業。平成3年山形大学医学部卒業。医学部生だった昭和59年、ラグビー試合中の事故で頸椎を脱臼骨折、四肢マヒとなり、車椅子生活となる。山形大学医学部附属病院で研修医として勤務後、同大学医学部精神神経科に入局。平成8年阿部クリニック開院、現在に至る。