2023年12月号
特集
けいたいに勝てばきつなり
インタビュー②
  • 女子プロボクサー葉月さな

私はなぜリングに
上がり続けるのか

運動経験のなかったシングルマザーが、30歳でボクシングのプロデビュー。7年の苦闘を経て世界タイトルの舞台へ駆け上がった。恵まれぬ家庭境遇、愛する家族との別れ、そして人生を変えたボクシングとの出逢い。どんな強敵にも臆することなくリングへ上がり続けるボクサーが、我が子に、そして亡き弟に伝えたい思いとは──。

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自分自身も憧れる「葉月さな」であり続けたい

──葉月さんは、9月にタイで行われた試合に勝利してWBC女子アトム級シルバー王座を獲得。3度目の世界戦へ大きく前進されたそうで、おめでとうございます。

ありがとうございます。相手の方は実績豊富なベテラン選手で、WBCの役員や審判の方々とも顔馴染なじみでした。試合の前にはもう別の団体の防衛戦も計画されていて、何だか向こうが勝つ前提で話が進められていた気がしたんですね。
ですから、はっきり分かる形で倒さないと勝てないんだろうなと覚悟を決めてリングに上がりました。そして5ラウンド目に、額のれがひどくなった相手が棄権して、勝つことができたんです。

今年(2023年)9月激戦を制し、WBC女子アトム級シルバー王座を獲得した葉月さん

──リングの上では、積極果敢に前へ出る戦いが信条だそうですね。

特にボクシングを始めたばかりの頃はスキルも全然なかったので、とにかくがむしゃらに前に出て手数を出すしかないと思ってやっていました。でももうすぐデビューして10年になるのでスキルもだいぶ身についてきて、そのタイの試合でも、前に出たり、距離を取ったり、ラウンドごとに攻め方を変えて勝つことができました。

──戦いに備えて、一日をどのように過ごしておられるのですか。
朝は大体7時頃に起きて犬の散歩に行き、そのままボクシングジムでトレーニングをします。昼食後は夜9時までフィットネスジムで仕事をして、その後1時間くらいロードワークをして帰宅します。夜は動画でボクシングの勉強をして寝る。そんな毎日です。

──ストイックな毎日ですが、辞めたいと思うことはありませんか。

始めて5、6年は、辞めたいという思いしかありませんでした(笑)。でも、2021年にコスタリカで世界タイトル戦のリングに上がった時に思ったんです。あり得ない場所に立っているって。
ボクシングを始める前の私は、スポーツ経験がまったくなくて、とても人に見せられないような怠惰たいだな人間でした。けれどもそこから必死に努力を積み重ねて、いまリングの上で世界チャンピオンと向き合っているこの「葉月さな」は、自分自身にとってもあこがれの人物になっている。だからいまは、そんな「葉月さな」であり続けたいという思いで頑張っているんです。

女子プロボクサー

葉月さな

はづき・さな

福岡県生まれ。スポーツ未経験でボクシングを始め、30歳でプロデビュー。令和元年OPBF女子東洋太平洋ミニマム級王座に挑み、初タイトル獲得。3年IBF女子世界ミニマム級タイトルマッチに臨む。判定で敗れたが、デビュー7年で世界王者への挑戦を実現した。5年WBC女子アトム級シルバー王座獲得。