2016年4月号
特集
夷険一節
  • 京都大学名誉教授中西輝政

不屈の人
チャーチルに学ぶ

イギリスの英雄にして世界的政治家、ウィンストン・チャーチル。存亡の機に瀕した国家を支え、勝利をもたらした彼の強固な信念は、いかに生み出されたのだろうか。中西輝政氏に、この希有なるリーダーの知られざる実像と、節を曲げない生き様を語っていただいた。

この記事は約16分でお読みいただけます

強力なウォー・リーダーの知られざる素顔

「決して屈服してはならない。決して屈服してはならない。決して、決して、決して、決して!」

チャーチルといえば、国民を奮い立たせる数々の名演説とともに、葉巻をくわえ、ブルドッグのような厳つい顔でVサインを決める姿を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。それはまさしく、ナチス・ドイツやソ連の脅威に敢然と立ち向かい、強力な指導力で国に勝利をもたらした「ウォー・リーダー」としてのイメージからくるものである。

しかし、それはチャーチルという人物の一面でしかない。実際の彼は実に繊細な心の持ち主であり、自分の弱さを熟知した人物であった。国民を鼓舞する名演説も、実は国民に向ける以上に自分自身に語り掛けるものであった。一国のリーダーとしてとてつもない重責を担う我が身を奮い立たせるために発していたのである。

いま日本は、新しい時代に進むべき道を見極める重要な局面に差し掛かっている。その際に、これまでの人類の歴史に指針を求めることは大変有意義なことである。その点、このウィンストン・チャーチルという人物には、噛んでもかんでも味わい尽くせない深みがある。現代にも通じる示唆に満ちた彼の人生を辿ってみたい。

京都大学名誉教授

中西輝政

なかにし・てるまさ

昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。平成2年石橋湛山賞。9年毎日出版文化賞、山本七平賞。14年正論大賞。17年文藝春秋読者賞。著書に『賢国への道』(致知出版社)など。近著に『日本人として知っておきたい外交の授業』(PHP文庫)『チャーチル名言録』(扶桑社)などがある。