2021年7月号
特集
一灯破闇
インタビュー①
  • 一ノ蔵社長鈴木 整

〝一滴〟に想いを込めて
酒造りの道を歩み続ける

酒造りへの並々ならぬ情熱と気概で日本酒業界に新風を吹き込んできた宮城県の一ノ蔵。その6代目社長を務める鈴木 整氏に、先代の教えや自らの人生を交えながら、コロナ禍という闇を破り、企業を発展・永続させていく要諦、酒造りへの想いを語っていただいた。

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いかにピンチをチャンスに変えていくか

——鈴木さんが社長を務める一ノ蔵の日本酒には、若者からご年配の方まで幅広い世代に根強いファンがいらっしゃるそうですね。

私どもは、吟醸ぎんじょう酒、グラスに注ぐと細かな泡が立ち上るスパークリングなど、皆様の好み、スタイルに合わせた様々な日本酒を商品化してきた酒蔵です。その中でも、やっぱり1番のメインは宮城県のお酒のイメージそのままのすっきりとした穏やかな味わいがある、食中にんでいただける日常・定番の日本酒なんですね。
具体的には、創業間もない頃から長年愛されてきた「一ノ蔵無鑑査むかんさ」シリーズがあるのですが、いまはその日常の日本酒の販売促進に改めて力を入れています。日常で呑んでいただいていれば、お祝い事、晴れの舞台のお酒にも弊社の商品をきっと選んでいただけるはずだとの思いがあるんです。

——目新しい商品よりも、いまあるものの価値をより一層磨いていくことが大事だと。

とはいえ、いままでの一ノ蔵ファンの方々に変わらず呑んでいただきながら、新たな層を開拓していくのは非常に難しい。どの蔵元も苦戦しているところではありますが、ステイホームという「新しい日常」が求められているコロナにおいては、なおさらご自宅で日本酒を呑んでいただく工夫をしていかなくてはなりません。

——やはり、新型コロナウイルスの影響は大きいですか。

地酒メーカーにとって特に飲食店や観光業の停滞の影響は非常に大きく、苦境に立たされているのが現状です。昨年の緊急事態宣言下では、出荷量の減少から飲食店で呑まれる日本酒のウエイトはこれほど大きかったのかと痛感させられましたし、観光地のホテルや旅館からの注文もほぼゼロになりました。また、日本酒の1番のき入れ時である年末には、忘年会も帰省もできないということで、デパートなどを通じて「宮城県の地酒をご家族、ご友人に贈ってはどうですか」という提案をさせていただいたりもしました。
ですから、このコロナ禍でいままで取り組んでいなかった新しいことに挑戦していくのは、とても大事だと思っています。そうすれば、コロナ禍が明けて需要が戻ってきた時に、新しい取り組みの成果が加わって、業績の回復も大きくなる。これをいわゆる〝V字回復〟というのだと思います。
コロナ禍のいまだからこそ何ができるか、ピンチをいかにチャンスに変えるかを常に考え、従業員皆で頑張っているところです。

一ノ蔵社長

鈴木 整

すずき・ひとし

昭和44年宮城県生まれ。山梨大学中退。東京のイベント会社に勤務後、平成16年に一ノ蔵に入社。製造、財務、営業各部門での勤務を経て、26年より現職。