2017年1月号
特集
青雲の志
インタビュー③
  • 書家、全日本書道連盟理事長星 弘道

求める心が
人生をひらく

現代日本を代表する書家として活躍する一方で、全日本書道連盟の理事長として書道の普及や書道教育の充実などにも精力的に取り組んできた星 弘道氏、72歳。終わりなき書の道を高い志を持って歩み続けてきた星氏に、影響を受けた師の教え、そして志を実現していく要諦をお話しいただいた。

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日本に書の文化を取り戻す

──星さんは、書家としてご活躍されている一方で、全日本書道連盟の理事長として、書道の普及や書道教育の充実にも精力的に取り組んでいらっしゃいます。

書というのは日々の積み重ねでしてね、練習を一日でも怠ると微妙な筆致というか、筆先のタッチがだめになるんですよ。
野球でいえばバットが球に当たる微妙な感触とか、書においても筆の紙に対するタッチがまさしくそれと同じなんです。ですから筆を持たない日がないようにして、常にそのタッチを体に覚え込ませておかないと紙に負けてしまう。書はまぁ、そういう世界ですね。
それで、平成27年に全日本書道連盟の理事長を拝命いたしまして、今度はその立場というものも含めて書を評価されるようになりました。「立場が人を創る」とはよくいいますが、さらに精進していかなくてはという思いを、いままさに強くしているところです。

──日本では、特に子供たちが書に触れる機会が年々減ってきているといわれています。

ええ。いま私が一番心配しているのも、書の教育が非常に稀薄になってきていることです。
かつては「書道」という独立した科目があったのですが、書を教えられる先生がいなくなってきたことなどもあり、現在では国語の中の「書写」という扱いでしかなくなってしまった。それでは子供たちに書の魅力は十分に伝わりませんし、書をやりたいという意識も芽生えてこないと思います。
いま、もっと書道教育を充実させるよう関係機関に要望書を出して掛け合っているところです。
それからパソコンやメールの普及で文字を書くこと自体少なくなってきたことも問題ですね。パソコンの文字ばかりだと、何かこう感じるものがない。その人の思いや人柄などは、書かれた文字から伝わってくるものでしょう?

──そうですね。パソコンだと皆同じ文字になってしまいます。

文字を書かない時代が来てしまえば、一人ひとりの個性も薄れていってしまう気がしますね。
それに、筆先が不安定な毛筆で書くことで、脳の働きが非常に活発になることが科学的にも分かってきました。書道には子供の情緒教育や認知症の改善など、優れた面がたくさんあるんですね。
当連盟の初代会長は総理を務めた吉田茂さんですが、いい書を書かれました。「書は人なり」といいますが、昔の政治家、日本人は教養というか、自分の内実を表現する手段として書を嗜んでいましたよ。いまの人も悪筆を自慢するのではなくて、書は鍛錬すれば鍛錬するだけうまくなりますから、書の文化、字を書くことをもっと大事にしてほしいと願っています。

書家、全日本書道連盟理事長

星 弘道

ほし こうどう

昭和19年栃木県生まれ。高校卒業と同時に上京し、立正大学文学部に進学。堀日榮上人に得度を受け、20歳で戒行寺(東京都)の住職に。相田緑洋氏に書の手ほどきを受けた後、書家・浅香鉄心氏に師事。漢詩を大東文化大学中国文学科元教授・猪口篤志氏に学ぶ。50年に日展初入選、平成19年「日展会員賞」、22年「日展文部科学大臣賞」、23年「日本芸術院賞」をそれぞれ受賞。27年全日本書道連盟理事長に就任。