2023年10月号
特集
出逢いの人間学
インタビュー③
  • タオ・エンターテイメント社長藤高郁夫

世界のDRUM TAOへ

30年の挑戦を支えた運命の出逢い

今年(2023年)結成30周年を迎え、世界26か国、累計観客動員数1,000万人に迫る和太鼓エンターテイメント集団「DRUM TAO」。
和太鼓のみならず、篠笛や三味線や琴などを組み合わせたダイナミックな演奏と観る者の心を揺さぶる独特の演出で、数多くの人々を魅了している。
代表を務める藤高郁夫氏に、30年の歩みの中で飛躍への転機となった出逢いとそこから学んだことを伺った。

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「がむしゃら」な30年

——藤高さんが代表を務める和太鼓エンターテイメント集団「DRドラUM TAOタオ」は、今年結成30周年を迎えられたそうですね。

おかげさまでこれまで世界26か国で公演し、累計観客動員数は900万人を超え、1,000万人に迫っています。今年は30周年記念公演を全国各地で行っていますが、地元・大分をはじめ結成当初にお世話になった場所での公演がたくさんあり、感慨もひとしおです。
この30年をひと言で振り返ると、「がむしゃら」ですね。子供が遊びに夢中になって、日が落ちて真っ暗なのにまだ打ち込んでいる。僕はそういう生き方をしているので、30年はあっと言う間だなと感じます。一方で、あんなこともした、こんなこともした、それやったのってまだ先月? みたいなこともしょっちゅうあって、ものすごく密度が濃いですね。
和太鼓というがむしゃらになれるものと出逢えたことは、本当に幸せだと思います。

——和太鼓との出逢いはどういう経緯だったのですか?

僕は大学卒業後、親が経営する会社の跡取りとして建築の道に進みました。ところが、不景気で会社をたたむことになり、それからというもの、いろいろな仕事を転々としました。仕事は面白かったんですけど、いまのように無我夢中だったかというと、そうではなかったですね。
九州最大手だった寿屋ことぶきやというスーパーで販売企画に携わっていた際、知り合いから「実は俺、いま和太鼓グループのプロデュースをしていて、今度ラスベガスに行こうと考えている。手伝ってくれないか」と声を掛けられたんです。「ラスベガスって、この人は何を寝ぼけたことを言うんだろう」と思っていると、「熱海あたみで公演があるからとにかく一回見てほしい」と。
最初は「お金なくて」と断ったんですが、お金は出してくれるというので、温泉旅行ついでに行くことにしました。そこで初めて和太鼓の演奏を見て、もうね、驚いたというか、やられました(笑)。こんなに格好いいものなのかって。

——衝撃を受けられた。

パフォーマンスを見ながら感動で素直に泣けましたし、その日の夜は感動したシーンが頭から離れない。この子たちだったら、ラスベガスで成功するかどうかは分からないけど、受けるんじゃないかと思ったんです。それで寿屋を辞めて手伝うことにしました。
ところがその後、大借金を抱えて会社は倒産し、ラスベガス計画も頓挫してしまったんです。メンバーの団長が「自分は太鼓しかできない。何でも言うことを聞くので、一緒にやってくれませんか。一から出直したいです」と。熱い思いを託され、「資金力はないけど、地元の九州だったらどうにかなるかもしれない」ということで7名のメンバーと共に再出発することにしました。1993年、34歳の時です。

タオ・エンターテイメント社長

藤高郁夫

ふじたか・いくお

昭和34年熊本県生まれ。大学卒業後、外資系商社や大手流通業を経て、平成5年にDRUM TAOを結成。7年に阿蘇くじゅう国立公園を有する大分県竹田市久住町に移転。12年九州を中心に100万枚のチケットセールスを記録する。16年世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」に初参加。25日間の連日公演をすべて完売させ、衝撃の世界デビューを飾る。以後、ワールドツアーを展開し、今年結成30周年を迎えた。