2016年11月号
特集
闘魂
一人称
  • 中京大学スポーツ科学部教授荒牧 勇

脳は使い方次第で
もっと成長する

トップアスリートの
脳はどこが違うのか

スポーツの世界でトップを極める選手は何が優れているのか。スポーツ脳科学という新しい分野に挑む荒牧 勇氏は、その答えを求めてこれまで500例近くものアスリートの脳画像を分析してきた。脳画像の分析を通じて分かってきたことを交えて、能力向上のための脳の使い方について語っていただいた。

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その人の特性や能力は脳に表れる

先のリオ五輪では、日本人アスリートたちのメダルラッシュに、国中が沸きました。

かつての日本人選手は、せっかく実力があっても本番に弱いと言われてしまうこともありましたが、この頃では大舞台でも堂々と振る舞い、日頃の練習成果を遺憾なく発揮する選手が増えてきているように思います。

私は脳の専門家として、これまで数多くのトップアスリートたちの脳の磁気共鳴画像(MRI)を見てきましたが、こうした本番への強さは脳の構造にも表れます。

例えば、現在研究中のアーチェリーの選手の中には、本番で力を発揮できる人とそうでない人がいます。両者の脳の構造の違いを調べたところ、本番で力を発揮できる人ほど、運動前野という脳部位の神経細胞が多数集まっている場所が大きいことが判明しました。最近の研究では、運動前野は情動的な刺激に影響されないでタスクをこなすために重要な場所であることも分かっており、注目を集めています。

このように、その人の特性や能力は脳画像から窺うことができます。

道路が複雑なロンドンで営業するタクシーの運転手の脳を調べると、海馬という空間の記憶に関係する部位が大きくなっていたそうです。数学の得意な人は頭頂葉が発達している傾向があるという報告もあります。我われの研究では、陸上の長距離選手は短距離選手に比べ、モチベーションや計画性を司る脳部位が大きいといった実験結果も出ています。

そして重要なことは、こうした脳の構造は決して固定したものではなく、一定のトレーニングを積むことによって発達させることが可能であるということです。

本稿では、数多くのアスリートの脳画像を分析して分かってきたことを交えながら、読者の皆さんの能力アップや、優れたパフォーマンスを発揮する方法を考えてみたいと思います。

中京大学スポーツ科学部教授

荒牧 勇

あらまき・ゆう

昭和47年神奈川県生まれ。平成8年東京大学教育学部体育学健康教育学科卒業。13年同大学大学院教育学研究科身体教育学コース博士課程単位取得退学。国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所流動研究員、生理学研究所JST研究員、情報通信研究機構専攻研究院、名古屋工業大学テニュアトラック准教授などを経て、23年より現職。博士(理学)。