2016年11月号
特集
闘魂
一人称
  • チャレンジドハート代表溝呂木 眞理

言葉は自分たちを
表現する武器

生後1か月で最重度の脳障碍児となった溝呂木梨穂さん。体の自由を奪われたばかりか言葉を発することさえできない梨穂さんだったが、娘にも必ず言葉があると信じ続けたのが、母・眞理さんだった。「娘のために」闘い続けてきた母と、沈黙の世界で「生きる意味」を求め続けてきた娘。そんな母娘の歩みから、「闘魂」の2文字が浮かび上がってくる。

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今年24歳の誕生日を迎えられた溝呂木梨穂さん

私の生きる意味

みぞろぎりほ――。

言いたい気持ちがあります。びっくりして夢のようです。長い間、待ち望んでいました。

私に言葉があると、なぜわかったのですか?

ご覧の通り、何もできない私ですが、ぼんやりと生きてきたわけではありません。

ずっと、私は人間とは何なのかということを、考えてきましたから、別に世の中の人が何と言おうと、私は私らしく生きてきました。
忘れもしない平成24年5月20日。この日、19歳5か月の長女・梨穂が言葉を持っていることを確認することができたのです。

生まれてすぐに脳に酸素が届かないという原因不明のトラブルに見舞われた梨穂。それによって体の自由はおろか言葉を話すことさえ奪われてしまった梨穂は、生後僅か1か月にして最重度の脳障碍児となってしまったのです。

それでも私には、梨穂の中にちゃんと意思や思いがあることをひしひしと感じてきました。梨穂にはきっと言葉がある。だから何としてもその言葉を引き出してあげたい――その一心でした。

それだけに長年抱いていた思いが叶った瞬間、鳥肌とともにえもいわれぬ喜びが体の中を駆け巡りました。しかも驚いたことに、梨穂の中には実に豊かな言葉の世界が広がっていたのです。

梨穂の言葉を引き出してくれたのは、國學院大学教授の柴田保之先生でした。柴田先生はこれまで「言葉を持たない」と思われてきた重度障碍者から言葉を引き出してこられた方です。

独自に開発されたスイッチを通じて、パソコン画面に次々と打ち出されていく梨穂の言葉。人によって最初はなかなかスムーズに言葉が出てこない方もいらっしゃるようですが、梨穂の中からはまるで溢れ出るように言葉が生み出されていったのです。
自分にとって理想は、良き理解者を見出して、どうして私たちが生きる意味があるのかということを伝える、そのことが夢でした。

少し考え過ぎると思われるかもしれませんが、私にとっては私が生まれた意味がわからないと、私をなかなか保つことさえ難しいからです。

理想をそのまま語ると、私にとって私の生きる意味は、私たちのような存在でも生きる意味があるのだから、どんな人にも生きる意味があるということです。

楽な人生ならそんなことは考えはしなかったでしょうね。でも、こうして私は、ぼんやりとは生きてこられなかったので、わざわざそういうことを考えてきました。

なぜ、私に生きる意味があるのかというと、黙ったままの人生でも人は希望をもって生きられるということを証明できたからです。

なかなか信じられないかもしれませんが、私は希望をなくしたことはありません。小さいころからずっとお母さんに、たくさん愛情を注いでもらいましたから、私はとても幸せです。

チャレンジドハート代表

溝呂木 眞理

みぞろぎ・まり

長野県生まれ。子供3人の母。東京デザイナー学院陶磁器科卒業。平成4年長女の梨穂さんを出産。平成24年小冊子『私の私らしさを見つけたよ』を製作、チャレンジドハートを立ち上げ、講演活動を始める。27年梨穂さんの詩集『らりるれろのまほう』(OfficeOharada)を出版。