2025年2月号
特集
2050年の日本を考える
対談
  • 国家基本問題研究所理事長櫻井よしこ
  • 京都大学名誉教授中西輝政

2050年の日本を考える

皇紀2685年、初代の神武天皇ご即位から悠久の歴史を紡いできた我が国日本。本年は戦後80年の節目でもある。哲学者・森信三師は「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。2050年、列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」との言葉を遺した。これからの四半世紀、日本が世界のモデルケースとなるために大切なことは何か。山積する内憂外患をいかにして乗り越えていけばよいか。櫻井よしこ氏と中西輝政氏の対談を通じて考察したい。

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政治責任を果たしていない日本の総理大臣

櫻井 中西先生、きょうはどうぞよろしくお願いします。お会いするのは一年ぶりですね。

中西 そうですね。櫻井先生とは『致知』の対談でお目にかかるのがすっかり恒例になりました。

櫻井 『致知』はいつも素晴らしい企画をなさり、熱心な読者がたくさんいらして、ものすごい求心力だなと感じています。

中西 今回は「2050年の日本を考える」というテーマですが、それにはまず日本の現状から話を進めるべきだろうと思います。
9月末に行われた自民党総裁選の結果、意外なことに石破政権が誕生しました。しかし、ご承知の通り、その1か月後の総選挙で自民公明両党合わせても過半数を下回った。これは石破さんが掲げた「最低ライン」の公約に達しなかったということですよね。
ここで問われるのは、政治責任が一番重いはずの総理の出処進退です。せっかく早期の総選挙に打って出たのに過半数に届かなかった時点で国民の信任を失っているわけですから、即辞任して当然でしょう。「憲政の常道」という言葉が大正時代からあるように、それが政治家としてのあり方、責任の取り方だと思います。
そもそも総裁選の時に、「国会で野党とも十分議論をしてから解散する」と言っていたのに、実際には戦後最速の解散をやっちゃった。それ以外にも、いわゆる「政治と金」の問題で収支報告書に不記載のあった議員を非公認にしたり、公認しても比例重複を認めなかったりと非常に冷遇しました。

櫻井 ひどい対応でした。

中西 ですから私は日本の現状において一番深刻な問題は、ちょっときつい言い方になりますけど、政治のトップに立つ人がどうも普通の責任ある社会人としての行動基準に達していないことだと。

櫻井 全然きつくないんじゃありません?(笑)

中西 そうですか(笑)。いずれにせよ、ここはしっかりとけじめをつけてもらわないといけませんね。
加えて後からお話が出ると思いますが、周辺国の情勢に目を向けると中朝露が一体化し、ほとんど全体主義の「三国同盟」のようになってきている。そういう危機の中で日本のトップのあり方、これは現状の諸問題の中で最も深刻だと思います。早期に総理を退いてもらわないと困りますよ。

国家基本問題研究所理事長

櫻井よしこ

さくらい・よしこ

ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスターなどを経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年に国家基本問題研究所を設立し、理事長に就任。23年正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。最新刊に『暴虐国家 習近平の中国』(共著/ワック)。

石破内閣が一日続けば日本の国益が一日損なわれる

櫻井 『致知』の読者や心ある日本人にとって大事なことはやっぱり道徳とか道義ですよね。自分の命や利益よりも家族や社会の公益がとても大事だと認識して、日々暮らしておられると思うんです。その観点から見て、これほど裏切りに満ちた総裁はかつていなかったのではないでしょうか。
第一に非常に困るのは、彼は自分の姿を客観的に見ることができない。だから、自民党の歴史的大敗は自分のせいではなく、「政治と金」の問題があったからで、それはとりわけ安倍派の責任だと決めつけているわけですね。
確かに政治資金規正法違反というのは決してめられたことではありません。でも、よくよく考えてみたら野党にも不記載の議員はいました。にもかかわらず、自民党、とりわけ安倍派に非難が集中した。石破さんにとってそれはこれ以上ない大義の旗となったわけです。
ですから選挙戦に当たっても、『朝日新聞』が最初に使い始めた言葉に乗じて、不記載議員を裏金議員と呼び、それをにしきはたのように使った。いわゆる裏金議員をきつく罰すれば罰するほど、国民は自分を支持してくれるに違いないと考えて、先述の通り考えられないような処分をしました。
他にも、原発を限りなくゼロにしますと言っていたのが、原発もやりますと変わった。選択的夫婦別姓も賛成ですと言っていたのが、慎重に考えると。政策自体はいずれも国益に資する転換ではありますが、180度変わっている。

中西 朝令暮改もはなはだしいですね。

櫻井 しかも平気な顔で。そういう姿に国民は失望したと思うんですね。だからこそ自民党は前回から700万票も減らして56議席の減少と大敗した。じゃあ立憲民主党がよかったかというと、立憲も6万票減らしたんです。でも、議席は50も増えた。これは要するに、自民党の票が国民民主党や日本維新の会、日本保守党に分散し、相対的に立憲が勝ってしまったわけですね。ですから国民は立憲を支持したわけではありません。
石破内閣がやっていることはすべて私たちの期待とは正反対のことで、日本としての価値観も歴史観も戦略性もない。エネルギー政策も安全保障政策も経済政策も分かっていない。本当にこの石破内閣が一日続けば、日本の国益が一日損なわれるということで、一日でも早くお辞めになるのがよいと思っているんです。

京都大学名誉教授

中西輝政

なかにし・てるまさ

昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。平成9年山本七平賞・毎日出版文化賞受賞。14年正論大賞受賞。著書多数。近刊に『シリーズ日本人のための文明学2 外交と歴史から見る中国』(ウェッジ)。