2022年7月号
特集
これでいいのか
対談
  • 瀬戸塾塾長(左)瀬戸謙介
  • 元高校教師(右)中村正和

徳のある子供を
いかに育てるか

日本の教育はこれでいいのか

44年前に東京・目黒で空手道場・瀬戸塾を立ち上げ、空手の指導と共に、武士道や『論語』などの生き方教育にも注力してきた瀬戸謙介氏。高校教師として様々な問題を抱える子供たちに向き合い、現在は有志と立ち上げた「もののふの会」を通じて、戦後教育の立て直しに情熱を傾けている中村正和氏。教育への滾るような思いを共有するお二人に、それぞれの実践を交え、求められる教育者のあり方、徳のある子供を育てる要諦を縦横に語り合っていただいた。

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『天皇の祈りと道』が導いた運命的な邂逅

中村 きょうは尊敬する瀬戸先生とのご対談ということで、とても楽しみにして参りました。

瀬戸 こちらこそ楽しみにしていました。気合い十分です(笑)。
私たちの出会いの始まりは、国民文化研究会が発刊する雑誌『国民同胞』に、中村先生のご著書『天皇の祈りと道』が推薦図書として紹介されていたことでした。これは面白そうだと思って取り寄せてみると、もう「序文」のところで感動しましてね。私が44年前に立ち上げた空手道場・瀬戸塾では、空手だけではなく、武士道や『論語』などを通じた人間教育に取り組んできたのですが、この序文は塾生、特に子供たちに絶対読ませるべきだと思ったんです。
それで出版社を通じてご了承いただき、序文のコピーを塾生、子供たちに配布して感想文を書いてもらい、それを掲載した『瀬戸塾新聞』を中村先生にお送りしたことが、お付き合いの始まりです。

中村 ええ、令和2年6月発行の『瀬戸塾新聞』でした。当時、新型コロナウイルスのまんえんで学校が休校になり、瀬戸塾の稽古もできないという状況の中で、瀬戸先生は拙著の序文を塾生、子供たち一人ひとりにお手紙を添えてお送りくださった。しかも、私の序文を小学生、中学生、高校生・大人用と理解度に応じてルビを振るなど、わざわざ3種類に打ち直して。
そうして集まってきた感想文を掲載した『瀬戸塾新聞』を拝読した時は、この本を書いてよかったと感激で涙が流れました……。

瀬戸 感想文をお送りしたがありました。

中村 序文は、2011年の東日本大震災で被災し、家族を失った9歳の男の子の話です。その男の子は、避難所で自分に渡された食料パックを、「僕よりお腹がいている人がたくさんいるから」と言って、配給所の箱に戻したのです。両親も行方不明、空腹と寒さの中で絶望している9歳の少年が、己を捨てて、人のために生きようとする。日本人は何と偉大な民族なのだろう、という内容でした。
きょうはその時の『瀬戸塾新聞』を持ってきましたから、瀬戸塾の子供たちの素晴らしい感想をいくつかご紹介したいと思います。
ぼくは、「てんのうのいのりとみち」をよんで、9歳の男の子が、他の人にたべものをあげたのが、すごくやさしいと思いました。
ぼくはさっきいもうとにけしゴムをかしてあげられなかったので、すぐかしてあげられるような男の子になります。
そのためには、もっとやさしい、やさしいお兄ちゃんになります。
(小学2年生)
ぼくが最も感動したのは、9歳の男の子の話です。家族が亡くなってとてもかなしんでいるなか、食料をわたされたらぼくは喜んで食べるかと思ったのに、ほかの子のために、食べなかったのがとても感動しました。今の時代でも、「人のために生きる」ことが大事だとあらためて知りました。
(中学1年生)
これらの感想文は、瀬戸先生が心を込めて子供たちをご指導されている賜物たまものだと感じました。それですぐにお礼のお電話をして、「ぜひお会いしたい!」と、瀬戸塾まで先生をお訪ねしたのでした。

瀬戸 あの時は初対面ながら意気投合し、近くの喫茶店で話し込んで……コロナでしたから、店長に嫌な顔をされましたね(笑)。

中村 私もこれまでの空手修行、瀬戸塾での実践についてお聞きして、この方は本当にすごいと敬服しました。ようやく自分の求める教育や思いを理解してくださる、こころざしを同じくする方とお会いできたという、誠にありがたい感謝の気持ちが込み上げてきたのをいまでも覚えています。まさに運命的なかいこうであったと思っております。

瀬戸塾塾長

瀬戸謙介

せと・けんすけ

昭和21年父親の赴任先である旧満州生まれ。獨協大学卒業。14歳で空手を始める。現在、社団法人日本空手協会八段、日本空手協会東京都本部会長。瀬戸塾を主宰し、空手指導と武士道や『論語』の講義を通じた人間教育に尽力する。著書に『子供が喜ぶ論語』『子供が育つ論語』(共に致知出版社)。

戦後の教育現場に蔓延る反日教育

中村 というのも、私はもともと武士であったことを誇りとする非常に厳格な祖父の下、封建的な家庭で育ち、教師の道に進んだのですが、退職までの35年間、教育現場に蔓延はびこる反日教育との孤独な闘いを続けていたんですね。在職中は教育へのうれいを同じくする同志に出会うことができず、まさに孤軍奮闘している状態でした。
また、その中で日本人としていかに生きるべきか、このまま教員を務めているだけでよいかとの疑問が募った私は、ひつぜんどうという独自の世界を開かれた書家・剣道家のてらやまたんちゅう先生に入門し、幕末の英傑・山岡てっしゅうが極めた剣・禅・書の修行にも打ち込みました。

瀬戸 悩みの中で、自分を厳しい状況に追い込んでいかれたと。

中村 教育現場で強く実感したのは、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領政策による戦後の反日教育、唯物論と拝金主義によって、日本の教育がさんたんたる状況に置かれているということです。
とにかく道徳を教えない、武士道をはじめとする、日本の素晴らしい文化・歴史・伝統を教えない。逆に日本は悪い国で侵略国だと言って、日本本来の考え方を否定し、唯物史観やリベラリズム、グローバリズムのよさを、先生方は得意になって教えているのです。
親や保育園・幼稚園の先生方が一生懸命に子供たちを教育しても、小・中・高と進学していくに従って、子供たちは夢や志、本来持っている輝きをだんだんと失っていき、駄目にされてしまう、というのが戦後教育の現実なんです。
実際、2020年のユニセフ(レポートカード16)の子供幸福度調査によれば、日本の子供たちの精神的幸福度は、参加した38か国中の37位、ワースト2位でした。これほど物質的に満たされているのに、日本の子供たちは不幸なんですよ。この調査結果は、まさに日本の教育が子供たちを駄目にしていることの証左です。

元高校教師

中村正和

なかむら・まさかず

昭和30年北海道生まれ。法政大学大学院修士課程修了。神奈川県下で高等学校教諭を歴任。退職後、執筆と筆禅道に専念。筆禅会幹事。獅士の会共催。令和4年、同志たちと日本の道・武士道を伝える「もののふの会」を設立。著書に『天皇の祈りと道』(展転社)がある。