2017年8月号
特集
維新する
対談
  • 東京急行電鉄社長野本弘文
  • 日本証券業協会会長、大和証券グループ本社顧問鈴木茂晴

経営は絶えざる
維新である

いま世の中は目まぐるしく変化している。規模の大小を問わず企業の盛衰も刻々と移りゆく。その中にあって、今期10年ぶりに過去最高益を更新した東急電鉄。片や就職人気ランキングで1位に選ばれた大和証券。経営トップとしてソフト、ハードの両面にわたって様々な改革を手掛けてこられた野本弘文社長と鈴木茂晴顧問に、それぞれの組織を繁栄発展へと導いてきた道のりについて語り合っていただいた。そこから見えてきた維新の要諦とは──。

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10年ぶりに過去最高益を更新

鈴木 野本さんとは同い年で何となく気が合うので、5~6年前から家族ぐるみでお付き合いさせていただいていますけど、こういう形で語り合うのは初めてですね。

野本 そうですね。普段ゴルフの話はしても、あまり真面目な話はしないですから(笑)。

鈴木 もちろん仕事の面でも大変お世話になっています(笑)。
それにしても東急は野本さんが社長になって、さらに業績が伸びていますよね。今期は確か過去最高益になったと伺っています。

野本 おかげさまで純利益は前期比21%増の670億円となり、10年ぶりに過去最高益を更新しました。まあ低いところで最高ですから、他社さんに比べるとまだまだですけれども、やっぱり企業というのは世の中に役立つことをしながら、常に成長していくことが最大の使命だと思っています。
創業百周年を迎える2022年には次の世代にバトンを引き継げるよう、いま為すべきことに全力投球しているところです。

東京急行電鉄社長

野本弘文

のもと・ひろふみ

昭和22年福岡県生まれ。46年早稲田大学理工学部卒業後、東京急行電鉄入社。63年子会社である東急不動産に出向。平成13年事業戦略推進本部メディア事業室長、16年系列ケーブルテレビ会社であるイッツ・コミュニケーションズ社長を経て、19年東京急行電鉄取締役。23年4月より取締役社長に就任。

「3つの日本一」というビジョン

鈴木 野本さんはどんどん新しいことをやられていますが、いまの改革を見ているとメイクセンスを感じます。それでいて発想が非常に斬新なんですよ。

野本 私が2011年に社長に就任した時、まず分かりやすいビジョンを掲げなきゃダメだと思いまして、「3つの日本一」という目標をつくりました。
一つは「住みたい沿線日本一」。そのためにどうするかということを掘り下げると、都心部へのアクセスや駅直結の施設はもちろん、街に緑がたくさんあり、学校や保育所、病院などが充実していて、子供からお年寄りまで幅広い層の人たちに安心と快適を感じていただけることが必要だろうと。

鈴木 そういう戦略を立てているからこそ、東急沿線は一つひとつがすごくいい街になっているのでしょうね。

野本 おかげさまでお客様からも子育てがしやすい、暮らしやすい街だと評価していただいています。
2つ目は、「訪れたい街日本一」ということで、私たちの本拠地である渋谷を日本一訪れたい街にしようと。若者だけではなく、海外から日本に来たお客様や地方から東京に来たお客様が「渋谷に行きたい」と言っていただける魅力をどうつくるか。
渋谷は言わずと知れた繁華街ですけれど、そこに甘んじていてはダメであって、常にいくつか話題性のあるものをつくり、変化させていかなきゃいけない。2012年に複合施設「渋谷ヒカリエ」を開業し、今年(2017年)4月にはオフィスや住宅、カフェ、多目的スペース、店舗などを揃えたクリエイティブ活動の新名所「渋谷キャスト」が誕生しました。

鈴木 渋谷は大きく変わりつつありますものね。すごいですよ。

野本 現在行っている再開発の全体的な完成は2027年度になりますが、先だって2019年度の開業を目指し、渋谷駅の再開発として約230メートルの超高層ビルを建設中です。屋上に日本最大級の規模を誇る展望施設を設置して、そこから足元には渋谷のスクランブル交差点が、遠くには富士山が眺められる。完成すれば世界的な観光名所になると思っています。
そして最後が、「働きたい街日本一」です。これは二子玉川を働きたい街日本一にするというものですが、二子玉川といえば昔から高級住宅街として有名で、働く場所というイメージはなかった。
その二子玉川を職住近接エリアとして再開発し、2015年に駅直結の複合施設「二子玉川ライズ」をオープンしました。東京ドーム2.4個相当の敷地にオフィスビルやショッピングセンター、高層マンション、公園などが入っているのですが、楽天の三木谷さんが「ここは面白い」ということで本社を移転していただきまして、その相乗効果もあり、開業前に1日約10万人だった乗降客数がいまや約16万人になっているんですよ。

鈴木 1.6倍増とはすごいですね。

野本 それと、数だけでは測ることのできない思わぬ効果もありました。再開発を進めていく中で、もともと二子玉川で働いていた方々が、「自分たちは日本一働きたい街で働いていて、その一翼を担っているんだ」と喜ばれて、働く意欲が上がったという話を後から聞いたんです。
社員とお客様のために掲げたビジョンが結果的に地域の方々にもよい影響を及ぼしている。正直、ここまでの効果は考えてなかっただけに深く心に刻まれました。
そんなことで「3つの日本一」というビジョンを掲げて、皆さんが頑張ってくれているおかげで、東急沿線はいま着実に活気づいてきています。

鈴木 まさに街づくりは生々発展と言えますね。

野本 ええ、そうですね。街づくりというのはずっと継続していきますから、終わりがないわけです。また、終わりがあってはいけない。いつ行っても新しいものがあって、住みたい、訪れたい、働きたいと思っていただける街に進化させていくことが大事だと思います。

日本証券業協会会長、大和証券グループ本社顧問

鈴木茂晴

すずき・しげはる

昭和22年京都府生まれ。46年慶應義塾大学経済学部卒業後、大和證券入社。引受第一部長、専務取締役などを経て、16年大和証券グループ本社取締役兼代表執行社長、大和証券代表取締社長。23年大和証券グループ本社取締役会長兼執行役、大和証券代表取締役会長。29年4月より最高顧問、7月より日本証券業協会会長に就任。