2016年5月号
特集
視座を高める
インタビュー③
  • 日本空港テクノ所属 環境マイスター新津春子

どんな仕事でも
心を込めて
ベストを尽くす

イギリスの航空サービスリサーチ会社が実施する国際空港評価で、世界一清潔な空港に認定された羽田空港。その中で、異彩を放つ1人のプロフェッショナルがいる。新津春子さん、日本空港テクノ所属の環境マイスターだ。中国残留孤児の2世であり、中国でも日本でも残酷ないじめを受けた。そこからいかにして自身の境遇を乗り越え、日本一の清掃員へと上り詰めたのか。

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汚れを見つけるほど笑顔になる

──新津さんは世界一清潔な空港に選ばれた羽田空港の清掃員として、テレビ出演や著書を出版されるなど、ご活躍されていますね。

ありがたいことにいまもまだ撮影や取材が続いていて、本来の仕事がほとんどできていないんです(笑)。

──空港で声を掛けられることも多いのでは?

それは毎日ですね。空港に限らず、街中でも必ず声を掛けられます。でも、私としては普通に仕事をやってきただけですから、何でこんなに反響がすごいのか、よく分からないんです。

──名刺に「環境マイスター」と書かれてありますが、これはどのようなポジションなのですか。

これは社内の制度としてつくられたもので、清掃部門で言えば、全国ビルクリーニング技能競技会という全国大会で1位になることがまず最低条件です。ただ、トップレベルの技術だけあってもダメで、心のこもったお客様応対ができるかどうか。というのは、空港の場合、他のオフィスビルなんかと違って、常にお客様がいる中で清掃するものですから、どうしてもお客様から尋ねられることが多いんですね。
あとは、単に自分だけができていればそれでよしではなく、他の清掃員に対してきちんと指導ができること。この3つをすべて兼ね備えている人間が環境マイスターです。私はその第一号に認定されました。

──技術力、人間力、指導力が高いレベルで求められるのですね。

はい。例えば、普通の清掃員だといつも使用する洗剤が決まっていて、その洗剤だけを使って汚れを落とすんですけど、私は約80種類の洗剤を駆使して清掃に当たっています。
なぜなら、その汚れによって効き目の高い洗剤、低い洗剤というのがあって、一見同じように落ちていても、仕上がりの綺麗さが全然違ってくるんですよ。だから、私はどういう汚れなのかによって使う洗剤を変えています。
落ちない汚れがあると、なぜだろうと考えるじゃない? どうやったらこの汚れを落とせるかって。

──闘争心に火がつく。

そう(笑)。自分でいろんな洗剤を買ってきて、仕事をしながらテストを重ねていく中で、知識や技術が高まっていきました。
私は毎日毎日、自分で目標を決めてやっていくんですよ。それをクリアすると、ものすごく嬉しい。達成感が出てくるじゃないですか。周りから「いつも笑顔だね」って言われるんですけど、私は汚れを見つけるほど笑顔になるんですね。それは清掃の仕事が好きだから、一番喜んでいるからなんです。

──日々欠かさない習慣って何かありますか。

どんなに長くてもエスカレーターは使わないで階段を上り下りすること。あと、朝晩必ず5㎏の鉄アレイで筋トレをしています。清掃の仕事って全身を使うので、結構体力が必要なんですね。私は好きでこの仕事をやっているから、体力がなくて続けていけなくなるのは、すごく嫌なんです。
筋トレは30回ずつって決めているんですけど、そうやって逃げ道をつくらなければ続くんです。もう15年くらいやっています。

日本空港テクノ所属 環境マイスター

新津春子

にいつ・はるこ

1970年中国瀋陽生まれ。17歳で渡日して以後、25年以上清掃の仕事を続ける。1997年全国ビルクリーニング技能競技会1位。現在、羽田空港国際線ターミナル、第1ターミナル、第2ターミナル清掃の実技指導者として活躍している。著書に『世界一清潔な空港の清掃人』(朝日新聞出版)などがある。