2026年10月号
特集
運をつかむ
対談
  • 大阪大学特別栄誉教授坂口志文
  • 京都大学副学長北川 進

運をつかむ
生き方

昨秋、我が国に光をもたらすニュースが飛び込んできた。2人の日本人によるノーベル賞同時受賞の快挙である。坂口志文氏は、制御性T細胞の発見で生理学・医学賞を受賞。これにより様々な難病治療の道が開かれることが期待されている。一方の北川進氏は、多孔性金属錯体の開発で化学賞を受賞。行き詰まりを見せる資源やエネルギー、環境などの問題解決に繋がるという。人類の未来に大きく貢献する業績はいかにして実現したのか。偉業を成し遂げた2人の人間力の源泉に迫る。

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    大阪大学特別栄誉教授

    坂口志文

    さかぐち・しもん

    昭和26年滋賀県生まれ。51年京都大学医学部医学科卒業。同大学院医学研究科入学。52年愛知県がんセンター研究所実験病理部門研修生。58年京都大学医学系研究科博士号取得。同年より渡米し、ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員等を務める。平成4年帰国。京都大学再生医科学研究所所長などを経て、23年大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学教授。現在は同大学特別栄誉教授。令和7年ノーベル生理学・医学賞受賞。

    京都大学副学長

    北川 進

    きたがわ・すすむ

    昭和26年京都府生まれ。49年京都大学工学部石油化学科卒業。54年同大学院工学研究科博士課程修了。近畿大学理工学部助手。その後同大学理工学部助教授、東京都立大学理学部教授を経て、平成10年京都大学大学院工学研究科教授。さらに同大学高等研究院物質─細胞統合システム拠点 拠点長などを経て、現在は、同大学理事、副学長、高等研究院特別教授。28年日本学士院賞。令和7年ノーベル化学賞受賞。

    同窓、同学年の2人が共にノーベル賞を受賞

    北川 坂口先生とは、昨秋共にノーベル賞を受賞して以来、随分いろんな所へご一緒させていただきましたね。

    坂口 政府へのちんじょうや講演が相次いで、とても忙しい時期が続きましたね。やっと最近になって研究室で学生の指導に時間を使えるようになりつつありますが、まだ完全には元の状態に戻っていません。私の仕事は人の役に立ってなんぼというところがありますから、早く受賞前の状態に戻りたいところです(笑)。北川先生のほうはいかがですか。

    北川 ご承知のように、この京都大学は2年半くらい前から、国の支援を得て研究強化を図るための国際卓越研究大学の認定準備を進めてきました。私は研究と共に、大学の副学長や研究担当理事も兼務しているので、ものすごく忙しいんです。そこへ政府から、坂口先生と一緒に陳情に行け、講演に行けといろいろ要請をいただくものだからまったく時間がない(笑)。いまは体調に気をつけることが一番の課題ですね。

    坂口 北川先生はいつもこちらの京都大学高等研究院で研究をなさっているのですね。

    北川 ええ。私がやっているのは基礎的な化学で、誰もできなかったことにチャレンジして実現することに燃えているわけです。ですから、ここはそのための私の城なんですよ。早くこの城で研究に没頭する毎日を取り戻したいですね(笑)。

    坂口 それにしても、同じ年にノーベル賞を受賞した我々2人が、同じ大学の同学年だったというのは実に奇遇ですね。

    北川 お互いにクラスが違うから、在学中は全くご縁がありませんでしたけれどね。

    坂口 ただ、北川先生のことはノーベル賞を受賞する前から存じ上げておりました。金属有機構造体の研究で学士院賞を取られたりして、とても有名でしたからね。

    北川 少し接点もありましたね。この高等研究院の前身である物質――細胞統合システム拠点で副拠点長を務めていた時に、初代拠点長の中辻憲夫先生を通じて坂口先生のご活躍ぶりは伺っていました。

    坂口 20年近く前のことですから、当時は北川先生と同じ年にノーベル賞を受賞することなど、考えも及びませんでした。ノーベル賞は国ごとに競うものではありませんが、それでも同じ年に日本から2人、別の分野で受賞できたことで、日本の国全体に明るいニュースをもたらすことができたのはよかったと思っています。

    北川 私は、まさか坂口先生に続いて自分も受賞するとは思いませんでした。実は受賞の連絡をもらったのが、の電話がかかってきた30分後でしてね。最初は怪しいなと思いましたが、先方は英語でしたし、選考委員長や専門分野の方が交替できちんと説明してくださったので、「あ、これは本当やな」と(笑)。

    ノーベル賞授賞式から一夜明け、授与されたメダルを手に 撮影に応じる北川氏と坂口氏 ©時事

    人類の未来に寄与する2つの偉大な業績

    坂口 北川先生が開発されたこうせいきんぞくさくたいというのは、大変画期的な素材なのだそうですね。

    北川 多孔性金属錯体は、微細な穴を持つ結晶性材料で、金属イオンと有機分子が結合して形成されます。穴の大きさや形を自由自在に設計でき、特定の気体だけを吸着・分離・貯蔵できるので、空気中から炭素や水素などを取り出して、資源やエネルギー、環境などの問題にも寄与できるんです。
    多孔性金属錯体を活用して空気中からエネルギーを調達できるようになれば、いままでのようにわざわざ地下から資源を掘り起こさなくて済みます。いまは資源を持っているアメリカとかロシア、中国といった国がけんを握っているでしょう。けれどもこの素材を活用すれば、そういう国に資源を依存しなくてよくなるんですよ。

    坂口 それはすごい素材ですね。

    北川 資源のない日本は、国を挙げて取り組むべきテーマなんですが、残念ながらいまの政府にはその視点があまりないんです。これからのエネルギー源といえば原発くらいしか頭にないし、その先に期待されている核融合なんて、実現は50~60年後の話でしょう。しかし私が提唱する技術なら20年後でも実現可能なんですよ。
    なぜかというと、既に人類がそれをやっているからです。第二次世界大戦中のドイツは石油がかつしたため、自国に豊富にあった石炭から人工石油をつくりました。石炭は炭素源ですから、代わりに空気中の炭素源を使えばいいわけです。
    これまでは、空気中のCO2を取り出すには膨大なエネルギーが必要なために行われてこなかったのですが、私が発見した材料なら、大量のエネルギーを使わずに取り出すことができるんです。
    坂口先生が発見された制御性T細胞についてもお話しください。こちらは免疫学最後の大発見と評されて大変話題になっていますね。

    坂口 私の専門である免疫学というのは、いかに免疫を強くしてウイルスや細菌などの外敵から体を守るかというのをテーマに発展してきた学問なんです。けれども、その自分を守るべき免疫が、時に自分自身を攻撃して様々な病気を引き起こしてしまうことがあります。私たちの研究グループは、その異常、過剰な免疫反応を抑える働きを持つリンパ球を発見したのですが、これが制御性T細胞なんです。
    免疫反応が自分自身に向かってしまうと、関節リウマチや1型糖尿病などの自己免疫疾患を引き起こしますから、制御性T細胞を活用することで、これらの病気の治療につながります。逆に、がん細胞は免疫反応が起こりにくいことで進行してしまうので、制御性T細胞を減らせば免疫反応が高まり、がん免疫療法に応用できるようになります。さらに臓器移植では、制御性T細胞が拒絶反応の抑制に働き、より安全かつ安定した移植が可能になるのです。

    北川 それは素晴らしい。坂口先生の発見によって、病気に苦しむたくさんの人が救われることでしょうね。

    坂口 制御性T細胞を活用することによって、これまで治療困難であった難病の治療に道が開けていきます。今回の受賞を契機に研究がさらに進み、臨床の場に応用されていくために、これからも少しでも貢献できればと考えています。