2026年10月号
特集
運をつかむ
対談
  • エスワイフード代表山本久美
  • 玄品グループ関門海社長山口久美子

あの日から私の
経営者人生は
始まった

妻の経営ふんとう

特製「幻の手羽先」で人気を博す居酒屋「世界の山ちゃん」と、最高級魚として知られるとらふぐを通年、廉価で味わえる専門店「玄品」。共に個人店から海外展開まで果たした有名チェーンである。しかしその道程には創業者急逝という岐路があった。最愛の夫を失う悲運を受け止め、主婦からそれぞれ経営を引き継いだ山本久美代表と山口久美子社長。2人の奮闘記に、運をつかむヒントを探る。

    この記事は約28分でお読みいただけます

    エスワイフード代表

    山本久美

    やまもと・くみ

    昭和42年静岡県生まれ。愛知教育大学卒業後、愛知県内で小学校教員になる。小学生のミニバスケットボールクラブを創設し、3度の全国優勝を果たす。平成12年エスワイフード創業者・山本重雄氏との結婚を機に専業主婦に。28年重雄氏の急逝に伴い入社、代表取締役となる。

    玄品グループ関門海社長

    山口久美子

    やまぐち・くみこ

    昭和47年大阪府生まれ。平成4年帝塚山学院短大卒業後、関門海創業者・山口聖二氏と結婚。17年の聖二氏急逝から7年後の24年関門海入社。CI推進部、執行役員を経て29年副社長、30年より社長。令和5年「女将のカウンター」を開き、週1回自ら現場にも立つ。

    対談は7月初旬、名古屋市のエスワイフード本社にて行われた。

    ファンを増やし続ける2人の女性経営者

    山本 きょうは暑い中、素敵なお着物でお越しいただいて、ありがとうございます。

    山口 こちらこそありがとうございます。同じ女性経営者として、前々から山本代表のご活躍は拝見していました。そうしたらこの間、ある女性の会で隣のお席になれて「あっ、『世界の山ちゃん』の!」って、嬉しくてお声がけさせてもらったんですよね。

    山本 去年(2025年)の11月でしたね。実は随分前に、名古屋で弊社のお店が入ったビルの真下の階に御社の「げんぴん」が入っていて、私も息子と食事に行っていたんです。

    山口 ええ、そうだったんですか。ありがとうございます。
    それにしても、私たちは名前からして、よく似ていますよね。

    山本 本当に。主人が亡くなったこと、主婦から経営者になったことを振り返って、そう思います。

    幻の手羽先と熟成とらふぐ

    山口 私の中学時代からの親友が「山ちゃん」の大ファンで、お父さんがよく出張のお土産に「幻の手羽先」を買ってきてくれたので私も好きになりました。今年もう創業45周年なんですね。

    山本 はい。弊社の看板商品はやはり「幻の手羽先」です。創業者である主人・山本しげが生み出した、コショウからさがクセになる1号店の頃から人気の一品です。
    私が代表に就いた2016年はお店も増えて、味にばらつきが出ていましたが、うちはあのコショウ辛さで愛されてきたのだから、原点の味に立ち返ろう。そう訴えて味の統一を進めてきました。
    一方、弊社には手羽先を超える商品をつくるための「打倒手羽先の会」という会議もあるんです。

    山口 打倒手羽先、ですか。

    山本 はい。ただ、手羽先を100点満点とすると、簡単にはいきません。ですから私は「ハズレの商品をつくらない」を合言葉に、全商品が70点以上のおいしさになるよう、社員と全国の店舗を回って検食をし、研究にいそしんでいます。とにかく「山ちゃんに来て『楽しかった』『おいしかった』」と言っていただけるお店にしたい、これは変わらない思いです。おかげさまでいまは、国内と海外で94店舗を展開できています。

    山口 そういう思いであのお店ができているんですね。ちなみに、ご主人は何年生まれですか?

    山本 1957年、私とは10歳差でした。山口社長のご主人も年上でいらっしゃいましたよね。

    山口 そうなんです。1961年生まれ、11歳年上でした。その主人・山口せいが1980年、地元大阪で開いたお店が「玄品」の始まりでした。
    高級魚として有名なふぐの中でも、一番美味で高級なとらふぐは当時、所得の高い層でないと滅多に口にできない食材でした。これを広く一般に手が届くものにしたい、それが主人の最初のこころざしです。
    ふぐはしものせきの市場から仕入れるのが常識でしたけれど、主人は幾つかの養殖場から一括購入して、通年安定した価格でご提供できる体制を整えました。当時で「てっちり(ふぐ鍋)1980円、てっさ(ふぐ刺し)980円」を打ち出して、評判になったんです。

    山本 魅力的なお値段ですよね。

    山口 そうですね! そして、さらに主人は「うちは〝研究開発型飲食業〟だ」と言っていました。価格だけでなく、味も旬に関係なくおいしくご提供したいと、養殖のふぐを天然の味に近づける研究開発に力を入れました。そこから長期低温熟成という技術を編み出し、いつお店に行ってもおいしく食べられる「熟成ふぐ」を生み出すことができました。

    山本 私が「玄品」に息子とお邪魔した時、コースを頼んだんですが、お鍋やお刺身はもちろん、ふぐの皮の唐揚げもめちゃくちゃおいしくって。コースの後に再注文した思い出があります(笑)。

    山口 嬉しい。弊社も昨年、創業45周年を迎え、国内と海外で合計65店舗になりました。とはいえ、とらふぐは世間ではまだまだニッチ商材ですから、一人でも多くの方に食べていただくために、もう日々日々しょうじんです。