2018年1月号
特集
仕事と人生
対談
  • 刀匠(左)松田次泰
  • JFEホールディングス特別顧問(右)數土文夫

一筋の道を極める生き方

その研ぎ澄まされた美しさの奥に、日本人の尊い精神を宿す日本刀。古の名工を超える技を目指し、人生のすべての刀づくりに注ぎ込んできた松田次泰氏と、松田氏の活動を支援する數土文夫氏に、日本刀が現代を生きる我われに語りかけるもの、そして一筋の道を極める生き方についてご対談いただいた。

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日本刀の持つ精神性を伝えたい

數土 私が川崎製鉄(現・JFEスチール)の同期である野崎努さんと大先輩である大橋延夫さんから、松田さんを紹介されたのは、4年くらい前でしたね。お二人はそれぞれ鉄鋼精錬と鉄鋼材料加工の専門家ですが、刀匠とうしょうである松田さんの仕事ぶりに非常に感銘を受けて、ぜひ後援会長になって活動を支援してほしいと。

松田 お二人には刀づくりに欠かせない鉄の研究でお世話になってまいりました。特に野崎さんは、たまたま同じ高校の先輩というご縁もあって、20年にわたって親交を続けてきたのですが、そのおかげで數土さんとのご縁を賜ることができました。

數土 ちょうどNHKの経営委員長から東京電力の社外取締役への転機でとても忙しい時期でしたが、お二人から「川鉄では随分君を助けてきたんだから、今度は私たちの頼みを聞いてほしい」と強く推されてお目にかかったわけです。

松田 數土さんは、数か月後には東京電力の会長にご就任なさいましたから、もしあのタイミングを逃していたらとてもお目通りはかなわなかったでしょう。後援会長になっていただいて本当に感謝しています。

數土 実は、私自身も若い頃から日本刀の持つ精神性にとても興味を持っていました。きっかけは新渡戸稲造の『武士道』ですよ。
「『刀は伊達だてに差さぬ』といいますが、彼が腰にげているものは、常に心に携えている忠義と名誉の象徴でした」
と。そして刀によって行われる切腹についても、
「日本人もギリシャ人も、人間の魂はこの『腹』にあたる部分のどこかに宿ると考えていました」
「『私は魂が鎮座している場所を開き、あなたにその様子を見せましょう。私の魂が清らかなのか、それとも汚れているのか。どうぞご自身でご確認ください』。切腹にはそういう意味があるのです」
と記してありました。だからこそ刀は、いかなる場合にもその役割を立派に果たすことができるように、鋭利で、美しくなければならないのだと。
これを学生の頃に読んで、強く印象に残っていたものですから、そういう日本刀の持つ精神性について、多くの方に知っていただきたいという思いを抱いていたんです。
ただ、後援会長を承る決め手になったのは、何より松田さんの一途なお人柄に感銘を受けたからでした。

松田 ありがとうございます。

數土 松田さんが日本刀に一心に打ち込まれるお姿は、実は私の中で彫刻家の平櫛ひらくし田中でんちゅうと重なるんです。
川鉄の企画部長になって岡山に赴任していた頃、地元にあった田中美術館で平櫛田中の作品を観に行ったことがありましてね。彼が97歳の時に30年分の材料を取り寄せ、107歳まで創作を続けた心意気に打たれたんです。松田さんは、そういう田中の姿とも重なって見えるんですよ。

刀匠

松田次泰

まつだ・つぐやす(本名 周二)

昭和23年北海道生まれ。北海道教育大学特設美術科卒業。49年刀匠・高橋次平師に入門。56年独立。平成8年日本美術刀剣保存協会会長賞受賞(以後特賞8回)。11年ロンドンで個展を開催。21年無鑑査認定。27年千葉県無形文化財保持者に認定。著書に『名刀に挑む』(PHP新書)、共著『日本刀・松田次泰の世界』(雄山閣)などがある。