2017年4月号
特集
繁栄の法則
  • 島根電工社長荒木恭司

住まいのおたすけ隊で
「期待を超える感動を!」

人口流出と高齢化による衰退が進む山陰地方にあって、右肩上がりに業績を伸ばしている島根電工。一般家庭向けに電気や水回りの困りごとを何でも解決する「住まいのおたすけ隊」というサービスを手掛け、お客様に快適な生活空間を提供している。「期待を超える感動を!」を合言葉に、同社の発展を導いてきた荒木恭司社長の経営哲学に迫った。

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不況下でも業績を伸ばし続けている理由

──県民所得や人口が全国最下位という山陰地方に、右肩上がりの成長を遂げる会社があると伺って、やってまいりました。

皆さんからよく「不思議な会社ですね」って言われるんですけど、私たちは普通どおりにやっているだけなんですよ。
我が社は昭和31年の創業以来、島根県を中心に、一貫して電気・通信・水道・空調などの設備工事を手掛けてきました。グループ全体の売上高の推移を見ると、バブル期の平成2年が83億円、建設業界冬の時代といわれた平成19年が110億円、平成24年が125億円、平成26年が155億円、今期も157億円に達する見込みです。従業員も今年(2017年)の4月に43名入ってきて、全部で600名になります。
内閣府の統計によれば、島根県の県民所得は46位、鳥取県は47位です。加えて、島根県で言うと、毎年6,000人くらいの大学生が県外に出て行く。卒業して帰ってくるのは僅か数百人。毎年5,000人ずつ減っているんです。島根県が69万人で鳥取県が57万人、2県で130万人弱しかいない。これは東京の杉並区と練馬区を合わせた人口にも満たないほどの数です。

──不況下でも業績を伸ばし続けてこられたのはなぜでしょうか。

一つには手厚い社員教育が挙げられますね。我が社では入社式が終わると、まず20日間の泊まり込みの研修があり、何のために仕事をするのか、どう生きてどう死んでいくのかといったことを私が伝えたり、お寺で坐禅を組んだりしています。
その研修が終わると、13ある各営業所からビッグブラザー(BB)と呼ばれる先輩社員が迎えに来るんですよ。BBは半年間、新入社員の傍にいて公私ともに面倒を見てあげる。
1年目は計4回、2.3年目はそれぞれ計3回、3年間で合計10回の研修があり、それ以降も職種と役職別に数々の研修が用意されているんです。
研修以外にも、3年目までの独身社員を対象にした家族懇談会や、出雲ドームを貸し切って社員とその家族、合わせて約1,000名が参加する大運動会、社員旅行など、社交の場も数多く開催しています。
そういった取り組みによって、新入社員の3年以内の離職率が島根県全体で48%ある中、我が社はたった1%なんです。

──驚異的な数字です。

あともう一つは、小泉政権のおかげなんですよ(笑)。かつて我が社は同業他社と同様に、大型の公共事業やゼネコン・地元工務店からの工事が中心でした。当時から設備工事では山陰で一番大きな会社でしたので、地域の病院やテレビ局、銀行、体育館といった大きな仕事はだいたいうちが手掛けてきたんです。
しかし、そういう大口の案件は景気の影響をもろに受ける。このままでは危ないと感じていた矢先、平成13年に小泉政権が発足し、公共事業は激減していきました。数字で見れば一目瞭然で、公共事業費は最も多かった平成7年には35兆円ありましたが、それが平成23年に17兆円、建設投資額もピーク時の平成4年の84兆円に対し、平成23年には42兆円まで落ちたんですね。
仕事がどんどん減っていく中、多くの業者が倒産しました。でも、一つの会社が倒産すると、核分裂のように2つか3つ、小さな会社ができる。だから、仕事は減るのに業者はなくならないんですよね。そこで何が起きてくるかって言うとダンピング(不当廉売)です。
要するに、経費を極力抑えて、ギリギリの予算で我われ下請けに工事を押しつけてくる。それを私は腐った肉だと言っているんですけど、そんな腐った肉を食うのはやめようと。そのためには新しい仕事、新しいお客様をつくらないといけない。で、考えた末に辿り着いたのが「住まいのおたすけ隊」というサービスでした。

島根電工社長

荒木恭司

あらき・きょうじ

昭和24年島根県生まれ。47年島根電工入社。米子営業所営業課長、出雲営業所所長を経て、平成8年常務取締役。専務取締役、副社長を経て、22年より現職。著書に『「不思議な会社」に不思議なんてない』(あさ出版)。