2020年10月号
特集
人生は常にこれから
  • 公益財団法人郷学研修所荒井 桂
安岡正篤 人間学講話3部作を紐解く

運命をひらく古聖先賢の教え

昭和26年、志に燃える関西の青年たちが碩学·安岡正篤師を招き「先哲講座」をスタートさせた。師の講話内容は『活学』(全3篇)という本に纏まり、その一部は後に致知出版社から『活学講座』『洗心講座』『照心講座』の人間学講話3部作として出版された。そこに示された古聖先賢の数々の教えは、人間が未来をひらく上での大切な指針となるものである。3部作が伝えるメッセージを郷学研修所所長・荒井 桂氏に語っていただいた。

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戦後、道心堅固な青年らに語られた人間学

戦後間もない昭和26年、安岡正篤まさひろ先生を師と仰ぐ関西の若者たちが先生を東京からお招きし「先哲講座」と題する講座を始めました。国も社会も人も進むべき道を見失った混沌こんとんとした時代の中で、志ある若者たちは安岡先生の講義を通して古聖先賢こせいせんけんの教えを学ぶことで人としての原理原則に立ち戻り、自らを啓発しようと考えたのです。本誌でお馴染みだった故・伊與田覺いよたさとる先生もその道心堅固どうしんけんごな青年のお一人でした。

開講100回を記念して講座の内容は『活学』第1篇として関西師友協会から上梓じょうしされ、続いて同協会設立15周年記念に第2篇、25周年記念に第3篇がそれぞれ刊行されました。

時を経て平成22年、致知出版社により、その『活学』に再び光が当てられました。

3篇の中からミニマムエッセンスを摘出して、いわば〝人間学講話3部作〟ともいうべき、

『活学講座』
『洗心講座』
『照心講座』

が刊行されたのです。そこに引用された古典の大意と解説を担当させていただいたのは、私にとって忘れ難い思い出になっています。

ところで、球界の名将と仰がれた故・野村克也氏が若い頃、『活学』を通して人間学に触れられたことをご存じでしょうか。選手を引退する前、評論家の草柳大蔵くさやなぎだいぞう氏から「本をたくさん読みなさい。そして人間学を学びなさい」と諭され、薦められたのが『活学』でした。野村氏は後年「人間学の本を読んだことが監督としての理念のようなものを形成するのに役立った」と語られています。

私も致知出版社主催の徳望塾にて野村氏とお会いし、お話を拝聴する機会に恵まれましたが、同世代の野村氏が人間学の学びを通して将としての器を磨き続けられたことにいたく敬服したものです。

野村氏が戦後間もない頃の安岡先生の講義内容に触発され、人や将としてのあり方を深く考えたように、『活学講座』『洗心講座』『照心講座』の3部作は、時代を超えて私たちの胸を打つものがあります。本欄ではそこに紹介された安岡先生の教えのいくつかを共に味わってみたいと思います。

公益財団法人郷学研修所、安岡正篤記念館副理事長兼所長

荒井 桂

あらい・かつら

昭和10年埼玉県生まれ。東京教育大学文学部卒業(東洋史学専攻)。以来40年間、埼玉県で高校教育、教育行政に従事。平成5年から10年まで埼玉県教育長。在任中、国の教育課程審議会委員並びに経済審議会特別委員等を歴任。16年6月以来現職。安岡教学を次世代に伝える活動に従事。著書に『「格言聯璧」を読む』『「資治通鑑」の名言に学ぶ』『山鹿素行「中朝事実」を読む』『「小學」を読む』『安岡教学の淵源』(いずれも致知出版社)など。