2019年10月号
特集
情熱にまさる能力なし
  • 料理評論家山本益博

イチローに学んだこと

2019年3月、45歳で現役を引退したイチロー。言わずと知れた球界のスーパースターである。ギネス世界記録に認定されている日米通算4,367安打を筆頭に、数々の金字塔を打ち立ててきた。そのイチローを独自の視点で長年追い続けている料理評論家・山本益博氏に、イチローが超一流たる所以、私たちが学ぶべき生き方を紐解いていただいた(写真:2019年3月21日、東京ドームで行われた引退試合にて©Sipa USA/時事通信フォト)。

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情熱の源泉はどこにあるのか

情熱にまさる能力なし─このテーマをいただいて率直に感じたのは、とても素晴らしい言葉だということである。考えてみると、人間にとって大事な能力はたくさんあるが、情熱こそ一番であり、いつの時代も情熱を持っている人が世の中を動かしていると思う。

では、情熱は一体どこから湧き起こってくるのだろうか。私なりに出した答えは、一つは「好奇心」。まずは何でも興味を持って物事に当たったり、人と会ったりする。もう一つは「好き嫌いがはっきり分別ふんべつできる」。人に対しても物事に対しても、これは好き、これは苦手と明確な理由を持ってきちんと線引きできること。

当たらずさわらずという人からはなかなか情熱は生まれてこないだろう。言ってみると、人間的には偏っているかもしれないが、あることに関しては人並み外れた熱の入れようだと周りから思われる。そういう一つ事に懸けている人にして初めて、何かを成し遂げることができるのではないか。
私は情熱という言葉が好きだし、71歳のいまも大事にしなければいけないと思っている。情熱に年齢は関係ない。けれども、若い時の情熱は格別であり、10代から20代半ばまでに何かに夢中になれた人は、一生情熱を持ち続けることができるだろう。

情熱の対象と出逢うきっかけは様々だが、小さい頃は特に、自分で見つけるというのはまれだ。親に勧められたり仲間と一緒にやったりしているうちに好奇心が湧いてきて、もっとやってみたい、もっと知りたいと周囲の手を借りず自ら打ち込むようになる。こうして情熱の根源が揺り動かされていく。

先日、「消えた天才」というテレビ番組を見た。超一流アスリートに若い時は勝っていたけれども、いまはまったく違う道を歩んでいる。そういう人たちに密着した内容だった。なぜ彼らは高い才能を持っていながら、その後超一流アスリートにならなかったのか、あるいはなれなかったのか。
タイミングや運が悪かったとか怪我けがをしてしまったとか、いろいろ要因はあるだろう。だが、結局は熱量の差が人生の分かれ目になっているように思う。

料理評論家

山本益博

やまもと・ますひろ

昭和23年東京都生まれ。47年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版される。57年に『東京・味のグランプ200』を出版して以来、日本で初めての「料理評論家」として活躍中。著書に『イチロー勝利への10ヵ条』(静山社文庫)など多数。