2019年2月号
特集
気韻生動
  • 祈りの芸術TAICHI-KIKAKU副理事長オーハシヨースケ

天命に生きた
二宮尊徳が教えるもの

身体表現教育者、身体詩パフォーマーとして舞台などで活躍中のオーハシヨースケ氏が二宮尊徳をテーマとした人材育成のワークショップを開発した。この度、弊社から『二宮尊徳に学ぶ天命の見つけ方』を上梓した。オーハシ氏に、身体表現教育者としての視点から捉えた尊徳の人物像を語っていただいた。

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尊徳を巡るいくつかの偶然の出会い

かの文豪・武者小路実篤むしゃのこうじさねあつがこう述べています。

「尊徳のことをまるで知らない人が日本人にあつたら、 日本人のはじだと思ふ」
 
長年、海外での演劇活動にばかりに目を向け、日本の歴史や伝統をあまりかえりみることをしてこなかった私は、そういう日本人の典型だったのかもしれません。
 
その私が尊徳を知ったのは、不思議なご縁によるものでした。2011年の東日本大震災の後、特に原発事故被災地の南相馬市みなみそうましで、被災者の「心をケア」をする支援活動に協力をしてきました。ある時、地元の方の案内で農業用の大きなため池の周りに設けられたつつみを散歩しながら「綺麗きれいなところですね」と話しかけると、その方は「この堤は尊徳の高弟・富田高慶こうけい報徳仕法ほうとくしほうによってつくられたものなんですよ」と教えてくださいました。
 
丘まで登って周囲を見渡すと、美しい堤があちらこちらにつくられていて、ため池の水面が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている様に思わず見入りました。村落全体を覆う優しさや気品。それをはぐくんだものがこの報徳仕法なのではないか、と思ったのはこの時でした。もちろん、尊徳や報徳仕法についてはまだ何も知りませんでしたが、この土地に尊徳の命が息づいていることを感じ取っていたのです。
 
その頃、私はイギリスの応用演劇を日本の企業研修や教育活動に取り入れるための活動をしていましたが、もっと日本人の感性に合った素材はないだろうかと模索している最中でした。そして、そういう思いを致知出版社の藤尾社長に手紙で伝えたところ、2017年に出版されたばかりの『超訳 報徳記』(富田高慶/原著)をお送りくださいました。この偶然には、自分でも驚かずにはいられませんでした。私はこの本を通して尊徳の生き方に感動し、さらに熟読、吟味した上で、約半年間を掛けて後述するワークショップを完成させていきました。
 
私が長年、世界各国で演じてきた身体詩は「言葉を超えた演劇」と呼ばれ、言葉ではなく体を使って自分の思いや感情を表現するアートです。そのベースには人間の心と体は1つという考えがあり、身体詩を通して心身一体の感覚を得た時に、生きているという実感が心の底から込み上げてくる喜びを私は体験してきました。
 
これからお伝えするのは、そういう演出家や俳優として、あるいは様々な教育活動を通して得た体験をベースとした私の尊徳像です。学術的視点とはいささか異なるところもあるかもしれませんが、最初にそのことをお断りしておきたいと思います。

NPO法人祈りの芸術TAICHI-KIKAKU副理事長

オーハシヨースケ

1957年生まれ。早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。これまで世界24か国延べ100都市以上で公演。92年JTクロス・カルチャー大賞、95年第7回カイロ国際実験演劇祭「BEST ACTOR AWARD」受賞。2001年国際交流基金フェローシップを得てIAD芸術大学(ベルギー)、2006年文化庁新進芸術家海外派遣でイギリス・チェスター大学で身体詩ワークショップを指導。 他にも世界各地の国際演劇祭など、国内外1万人以上の人々に身体詩ワークショプを指導。新著に『二宮尊徳に学ぶ天命の見つけ方』(致知出版社)。他の著書に『ゼロ秒で相手に伝わる「立ち位置」の法則』(かんき出版)。