2018年7月号
特集
人間の花
  • 静岡大学大学院教授舘岡康雄

会社に花を咲かせる
SHIEN学という
科学のすすめ

企業経営などあらゆる面で閉塞感に苛まれている時代、私たちはその活路をどこに求めればよいのだろうか。世界一のV字回復と謳われた大手自動車会社の経営改革のエッセンスをまとめた経験を持つ静岡大学大学院教授・舘岡康雄氏が提唱するSHIEN学は、新たな科学とも呼べるものである。一人ひとりの社員を輝かせ、会社に花を咲かせるための道筋を示していただいた。

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新しい時代の働き方・あり方

現在の日本社会を象徴する言葉の一つに「閉塞感へいそくかん」があります。企業の経営が、従来と同じやり方をしているだけでは立ち行かなくなり、仕事の充足感を失った多くの社員が鬱病うつびょうになり、休職や退職に追い込まれている嘆かわしい現状はその典型です。もがけばもがくほど、新たな手を打とうとすればするほどさらに深みにはまって動けなくなってしまう。多くの企業がそういう八方ふさがりのジレンマに陥っているのです。

この窮地から抜け出すために大事なことは、私たちは時代の大きな転換期を迎えていることをしっかりと自覚し、発想を根本から変えること。つまり古い価値観を思い切って手放すことです。

後の話とも関わってきますが、「とにかく相手との競争に勝ち抜かなくては生き残ってはいけない」「相手を助けることは損だ」という西洋型の考え方自体が既に古い価値観といえます。

高度成長期であれば、管理型社会の主流だったトップダウン方式によって競争に打ち勝つ強い組織をつくることができました。戦後物もなくインフラもない時代には、答えは単純で(道路をつくったり、物を生み出す)少ない優秀な人が計画を立て、後の人は手足となってそれを実行しさえすれば価値を生み出すことができたのです。しかし、それもいまや限界にきています。変化が激しく物余りの複雑な混沌こんとんとした社会では、これまで組織を牽引けんいんしてきた強力なリーダーでさえも、どういう手を打つべきか分からないでいるのです。

これからご紹介するSHIENしえん学は、そういう時代に求められる新たな生き方・働き方です。実際、SHIEN学を学んだ企業や組織の多くがそれまでになかった気づきを得てよみがえっているのですが、SHIEN学の本論に入る前に、私が前職で経験した出来事について述べてみたいと思います。

静岡大学大学院教授

舘岡康雄

たておか・やすを

昭和28年東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、大手自動車メーカーの材料研究所に勤務。研究開発部門、生産技術部門、購買部門、品質保証部門を経て人事部門時代には会社再建のエッセンスをまとめあげる。現在静岡大学大学院教授。著書に『利他性の経済学』(新曜社)『世界を変えるSHIEN学』(フィルムアート社)『シナジー社会論』(東京大学出版会)など。