2025年10月号
特集
出逢いが運命を変える
一人称
  • 日本会議福島女性の会幹事秋山智子

山鹿やまが 素行そこう
『中朝事実』の教え

世界の秩序は激変し、社会はますます混迷の度を深めている。この難しい時代に、私たちは何を拠り所として生きていけばよいのだろうか。家庭の主婦の立場で、江戸時代初期の兵学者・山鹿素行の名著『中朝事実』の現代語訳を手がけた秋山智子さんに、その挑戦に込めた思いと、素行が説く日本の心についてお話しいただいた。【写真:©赤穂市立歴史博物館】

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    「一般の人が読めるようになるといいですね」

    江戸時代初期の兵学者であるやま鹿こう先生が著された『ちゅうちょうじつ』は、日本古来の精神を究明し、我が国のくにがらを明らかにした書物です。私は昨年(2024年)、この名著をぜひとも多くの方に読んでいただきたいと願い、『現代語訳でやさしく読む「中朝事実」 日本建国の物語』をじょうしました。歴史の専門家でもない家庭の主婦である私がこれを手懸けたいきさつは、既に成人した我が子の子育てにいそしんでいた頃にさかのぼります。

    地元の中学校のボランティアに応募して、図書室の諸業務を務めていた時のことです。新たに運営に携わることになった方が、「もっと子供たちが喜ぶような新しい図書室にしましょう」と、大切な日本の伝記や歴史の本を次々と処分し始めたのです。私は反対をしましたが、結局聞き入れてはもらえませんでした。

    私はこの出来事に強いショックを受け、日本の歴史や文化を子供たちに語り伝えていくために、自分の立場で何かできることはないかと考えるようになりました。

    そんな折に目に留まったのが、大学で山鹿素行の研究をしていた主人の蔵書の1冊、『きょうしょうがく』でした。これは、素行先生が説いていた武士道の心得を弟子たちがまとめた短い書物です。一読して深い感動を覚えた私は、ぜひともこういう本を子供たちに読んでもらいたいという一念から、現代語に訳してみました。それが日本学協会の月刊誌『日本』に掲載されたご縁で、私は素行先生の業績をけんしょうする素行会の会長を務めておられた牧野てるよし先生から、思いがけず『中朝事実』の講読会にお誘いいただきました。

    「『中朝事実』も一般の人が読めるようになるといいですね」

    その折に牧野先生がおっしゃったこの言葉は、いつまでも私の心から離れず、ついには『中朝事実』の現代語訳に挑戦するに至ったのです。

    山鹿素行

    やまが・そこう

    1622(元和8)年〜1685(貞享2)年。江戸前期の兵学者。会津に生まれる。江戸に出て儒学・兵学・神道・仏教・歌学などを修め、古学を提唱。『聖教要録』を著して官学の朱子学を批判したことが幕府に咎められ、播磨の赤穂に流された。後に赦免されて江戸に帰った。著書に『武教要録』『配所残筆』『中朝事実』『武教全書』など。

    日本会議福島女性の会幹事

    秋山智子

    あきやま・ともこ

    昭和33年岡山県生まれ。55年皇學館大学文学部国文学科卒業。同大学出版部勤務を経て家庭の主婦に。日本会議福島女性の会役員。編訳著に『現代語訳でやさしく読む「中朝事実」 日本建国の物語』(錦正社)がある。