2021年8月号
特集
積み重ね 積み重ねても また積み重ね
インタビュー①
  • カンサイ建装工業社長草刈健太郎

亡き妹の面影を胸に
受刑者の社会復帰を支援

いま、日本の刑務所や少年院で服役する受刑者は約5万人。その約半数が、出所後に再び犯罪を起こすという。一筋縄ではいかない受刑者の更生支援に、並々ならぬ情熱で取り組む草刈健太郎氏を突き動かすものは何か。その原点と、活動に懸ける思いを伺った。

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「俺がおまえ親になったる」

——草刈さんは大阪で事業を営むかたわら、犯罪を起こした人の社会復帰支援にも力を注いでおられるそうですね。

はい。2013年に法務省、日本財団と私たち民間企業が協力して立ち上げた「職親しょくしんプロジェクト」で、刑務所や少年院から出てきた人の就労と更生を支援しています。
日本にはいま、刑務所に入っている人が約5万人いて、その2人に1人が出所後に再び犯罪を起こすといわれています。せっかく塀の中で反省してやり直そうとしても、所持金が少ないため新たに部屋を借りるお金もなく、以前過ごしていた環境から抜け出せなかったり、受け入れてくれる企業が少なく、働き口がない中で再び罪を起こしてしまうことが多いんです。
ですから私たちは、彼らの住む場所と仕事の世話をし、再チャレンジの後押しをすることを通じて再犯防止につなげていきたいと考えています。「俺がおまえの親になったる」という気持ちで、行き場のない彼らを引き受けているんです。
私自身は、建設会社と塗装会社と人材派遣会社の3社を経営していて、これまで30人以上をそこで雇ってきました。

——雇った人は、うまく職場に馴染なじんでいますか。

現場監督をやりたいと言う子がいましてね。現場監督というのは職人さんと違って大勢の人をまとめる管理職なので、結構勉強しないといけないんですが、一所懸命努力して、いまは立派に務めを果たしてくれています。
それから、うちで雇った後で仲の悪かった兄と和解し、いまはその兄が営む防水工事の会社に移って、うちの下請けで仕事をしてくれている子もいます。
ただ、仕事が続かずに辞めていく子が大半ですね。中には、仮釈放を早く取るためにうちを利用して、すぐに逃げ出してしまうケースもあったり。後のことが気になるので、辞めた子とは連絡を取り続けていますけれども。
もちろんうちの仕事が合わない場合もあるので、別の就職口を探してあげたり、精神疾患しっかんだったら治療をほどこしながら仕事に順応させたりすることもあります。とにかくいろんなタイプがあるので、入所している時から様子を見に行って、どういう人間なのかを把握した上で、その子に合った更生の道筋を考えるようにしています。
とにかく離さないこと。愛情を込めて向き合うことが大事だというのが実感です。

カンサイ建装工業社長

草刈健太郎

くさかり・けんたろう

昭和48年大阪府生まれ。近畿大学法学部卒業。カンサイ建装工業、日之出塗装工業、オープンブックマネジメントの社長を務める傍ら、日本財団の再犯防止プロジェクト「職親プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、受刑者の社会復帰促進就労支援を実施。また、自ら設立したOMOIYARIプロジェクトの代表理事として、就労支援以外に被災地支援や発展途上国支援などにも邁進。著書に『お前の親になったる』(小学館集英社プロダクション)がある。