2021年8月号
特集
積み重ね 積み重ねても また積み重ね
  • 志ネットワーク「青年塾」代表上甲 晃

運命をひらく人生の
〝合い言葉〟

長年、松下幸之助の薫陶を受け、志の高い日本人の育成に力を注ぐ上甲晃氏。氏が代表を務める「青年塾」では、実学を通じて人間としての魅力を磨いているが、青年塾生の間には人生をひらくための〝合い言葉〟があるという。その合い言葉をご紹介いただくと共に、合い言葉を考案し、浸透させるまでに上甲氏が積み重ねてきた日々を伺った。

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松下幸之助から学んだ〝生きた勉強〟

「人間の勉強をしいや」

これが新卒で松下電器に入り、松下幸之助から最初に教わったことでした。

京都大学教育学部を卒業し、曲がりなりにも教育学の専門家であると自負していた私にとって、松下電器での新入社員研修はカルチャーショックの連続でした。初めの半年間は町の電気店で店員として働くも、自分が一番誇りに思っていた学歴ではテレビ一台売れないのだと痛感させられたのです。教育に対する考え方が根底から覆された瞬間でした。そして社内で行われた研修で松下幸之助はこう言いました。

「知識を頭に詰め込むことだけが勉強ではないんやで。知識を否定するわけやないけど、その知識は全部道具や。使うあんた方自身が人間として立派になってこんと、どんなにいい道具を持っておっても絶対に実社会では通用しない。だから、人間の勉強をしいや」

目からうろこが落ちたようでした。大学で4年間勉強してきても、これほど感動し、はらにストーンと落ちた教えはありません。
学問と実社会で必要とされる学びはまったく違う――。この気づきは、私が今日まで一貫して持ち続けている基本姿勢です。

松下幸之助は尋常小学校を中退し、丁稚でっちとして働きながら〝生きた勉強〟をしてきた人です。それは、頭に知識を増やす勉強とは異なり、心を育て、肚を鍛える勉強でありました。言葉が極めて日常的で平易でありながら、心を揺さぶる力があるのはそのためです。

この松下幸之助からの学びが後年に、簡単な言葉で誰もが分かる〝合い言葉〟を伝えるようになった原点です。私が学んだ人生の真理をいかに多くの人に伝えられるかを模索し続けた結果、シンプルな言葉に凝縮されていきました。言葉の内容は後述しますが、この合い言葉が自然と、私が主宰する「青年塾」の塾生の行動指針になり、いまでは伝統となっています。

志ネットワーク「青年塾」代表

上甲 晃

じょうこう・あきら

昭和16年大阪市生まれ。40年京都大学卒業と同時に、松下電器産業(現・パナソニック)入社。広報、電子レンジ販売などを担当し、56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年、青年塾を創設。著書に『志のみ持参』『松下幸之助に学んだ人生で大事なこと』など多数。8月に最新刊『人生の合い言葉』を刊行予定(いずれも致知出版社)。