2018年9月号
特集
内発力
インタビュー②
  • ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー舩橋真俊

すべての生命が輝き、
協生できる社会を目指す

協生農法の挑戦

多種多様な植物を混生・密生、土地を耕さず、肥料や農薬も一切使わない——。従来の農業のあり方を覆す新農法「協生農法」を確立し、生産性の向上や砂漠の緑化など、国内外で大きな成果を挙げているソニーコンピューターサイエンス研究所リサーチャーの舩橋真俊氏。環境や健康問題、途上国の貧困など、いま現代社会が直面する様々な課題を解決に導く可能性を持つ協生農法はいかに確立されていったのか。舩橋氏に人生の歩みとともに語っていただいた。

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人間は30万年の間、自然から食糧を得てきた

——舩橋さんが確立した新しい農法である「協生農法」が、国内外で大変注目を集めていますね。

農業と聞くと、まず土を耕して、肥料をやって……、というような先入観から入る人が多いんですが、人間が食糧を生産する方法っていろいろあるんですよ。
海に潜って魚を獲ったり、わなを仕掛けて鹿やいのししなどを捕まえたり、そもそも人間は自然から直接食べ物を獲ってくるという生活を何十万年と続けてきたんです。
それで、骨格が現生人類、いわゆるホモ-サピエンスといわれるようになったのは約30万年前で、それから狩猟採集をずっとやってきて、日本では2000年前から稲作がメジャーになりました。要するに私たちが土地を耕し食糧をつくってきた期間は、人類の歴史からすれば本当にわずかなんですね。

——確かにそうですね。

ただ、当時は肥料もありませんから、度々大凶作になるわけです。そうした中で約400年前に有機肥料が、50年前にようやく農薬や化学肥料が出てきたと。
で、いま私たちが食べている食糧の多くが化学肥料や農薬、あるいは、養殖によってつくられているわけですが、それは人間が30万年の間、自然から直接獲得してきたものとは違うわけですよ。

——人間が30万年、自然から食糧を獲得してきた方法と、いまの方法では食糧の質が違うということが協生農法の原点ですか。

ええ。その食糧の質の違い、農業のあり方が、私たちが直面している環境汚染や健康問題にも影響しているのではないかという仮説、そしてそれを解決するにはどうすればよいかという問いから出発したのが協生農法なんですね。
事実、環境汚染でいえば、畑に肥料や農薬をくと、それが雨などで川に流され、沿岸の海中が低酸素化し、小さな貝類などがほとんど死んでしまう状況が出現しています。海に潜ってみても抵抗力のある大きな貝しか残っていません。また、草原や森林を伐採して農地にすれば、それだけで多くの動物や植物が生息地を奪われ絶滅する恐れがあるんですね。
確かにいまの農業は私たちの生活を豊かにしてくれましたが、半面、人間活動を続けるために環境問題や健康問題を引き起こしてしまうという状態にあるんです。

ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー

舩橋真俊

ふなばし・まさとし

昭和54年神奈川県生まれ。東京大学にて生物学、数理科学を修め、仏エコールポリテクニク大学院にて物理学博士取得。獣医師免許資格保持。平成22年ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー。環境問題、健康問題の交差点となる農業をはじめとする食糧生産において、生物多様性に基づく協生農法の構築し、人間社会と生態系の双方向的な回復と発展に取り組む。