2018年9月号
特集
内発力
インタビュー③
  • 漫画家たむらあやこ

大病を乗り越えて
見えてきたもの

年間10万人に1人か2人が発症するという国指定の難病、ギラン・バレー症候群。その難病に22歳で罹患し、「一生寝たきり」と診断されながらも奇跡の回復を見せた、漫画家たむらあやこさん。想像を絶する痛みを乗り越えた先に掴んだものを、その半生とともにお話しいただいた。

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後遺症との闘い

——たむらさんはギラン・バレー症候群という難病に罹患りかんされながらも、現在は漫画家としての道を歩まれているそうですね。

私の場合、運動神経に問題がなかったので、何とかやれていますけど、同じギラン・バレー症候群でも、かかった方によって症状が全然違うんですよ。
というのも、この病気に罹ると神経が一遍いっぺんに、しかも無秩序に壊されてしまいます。私は呼吸筋や運動神経は無事でしたけど、人によっては症状が出た途端とたんに意識を失って、誰に気づかれることなく亡くなる方も多いのではないかという恐ろしい病気なんです。

——病気が発症した途端、命の危険にさらされてしまうのですか。

ギラン・バレー症候群は神経内科というジャンルの難病で、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索きんいしゅくせいそくさく硬化症こうかしょう)などが比較的よく知られていますが、どれも発症後にだんだん悪化していくのが多いんです。ところがギラン・バレー症候群はその逆で、初期段階でALSの末期のような症状が一気に襲ってくる。その後、徐々に回復していくという経過を辿たどるのが一般的だと言われています。

——いまはどれくらい回復されているのですか?

私もだいぶ神経を壊されたため、身体中の感覚がまばらにないというのが現状ですね。

——感覚がまばらにない。

ええ。手足の感覚は指先のほうからまったくないんですけど、胴体や顔については、ここは感覚があるけど、ここはないっていう感じです。それってお風呂に浸かっている時に、熱を感じるかどうかでよく分かるんですよ。
それと私の場合は、お腹の神経の壊れ方が一番ひどかったみたいで、いまもちょっとした風邪や疲れが出ると、吐き気や下痢げり、腹痛などの症状が強烈に出るんですけど、薬が全く効きません。ですから、症状が治まるまでは、じっと我慢しているしかないんです。

——それはおつらいですね。

一度、どうしても我慢できなくなって救急車に乗せられ、病院で検査をしてもらったことがあるんですけど、数値上は健康体そのものなんです。本当は黙っていられないくらい苦しくてしょうがないのに、全部神経の症状だから病院ではどうにもならない。この辺りはもうちょっと治ってほしいなっていう思いはありますね。
他にも後遺症はいろいろありますが、例えば血圧は上が80、下が30というのが普通ですね。以前は立つだけでクラクラしていたんですけど、だんだん慣れてきたせいか、いまはだいぶ動けるようになったんですよ。

漫画家

たむらあやこ

たむら・あやこ

昭和55年北海道生まれ。22歳でギラン・バレー症候群に罹患。1年9か月に及ぶ入院生活を経て、自宅療養を続ける。平成26年講談社の漫画雑誌『モーニング』が主催するコンテストで、自身の闘病生活を綴った作品が「編集部賞」を受賞。翌年から「ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!」を連載。28年に単行本化。