2025年4月号
特集
人間における運の研究
一人称
  • あさか大師香林寺山主山路天酬

運命を開く立命の書
陰騭録いんしつろく』に学ぶ

運命は固定したものではなく、自ら切り開いていくもの。この立命の心を説くのが中国明末の書『陰騭録』である。仏道を歩みながら運命論の研究を重ねてきた異色の僧侶・山路天酬氏に、この稀有なる書から学ぶべき運命好転の心得を繙いていただいた。

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人間の運命を追求し続けて

人間の運命は何によってつくられていくのだろうか──。

私が若い頃から抱いてきたこの命題に、明解な指針を与えてくれたのが、中国明代の書『陰騭録いんしつろく』でした。

私は現在、埼玉県朝霞あさか市のあさか大師香林寺で山主を務めています。生まれは栃木県の農村なのですが、病弱な母の健康を願い、祖母に連れられてお寺参りを重ねたところから宗教心が芽生えたようです。小学3年生の時に母を失ってからはその傾向に拍車がかかりました。

転機を迎えたのは23歳の時。真言宗の尼僧にそうであった妻と出会い、正式に仏門に入り、寺の仕事を務めるようになりました。そして平成30年に、あさか大師香林寺を開山したのです。

私は真言宗の僧侶として教義の学習や修行に励む一方で、運命学の学校や占術の先生に学び、運命の研究を継続しました。その過程で、占術は願いごとを達成する力にはなるけれども、人生そのものを変える力、つまり運命そのものを変える力にはならないのではないかという疑問を抱きました。そこで浮上するのが、仏教の宿業しゅくごうという命題です。つまり、仏教と運命学を統合することが、私の積年のテーマとなりました。そしてその格好の教材となったのが、『陰騭録』でした。

同書を初めて手に取ったのは昭和45年。一読して深い感銘を受けた私は、類書を買い求めては熟読し、学びを深めていきました。中でも大阪の関西師友協会より刊行された安岡正篤先生の『運命と立命』(*編集部註/致知出版社より『立命の書「陰騭録」を読む』と改題し復刊)は、明代の難解な原書を現代に蘇生そせいさせた偉大な金字塔といえます。

あさか大師香林寺山主

山路天酬

やまじ・てんしゅう

昭和27年栃木県生まれ。16歳で弘法大師空海の書に触れ、真言密教の僧侶になることを決意する。三宝院流と修験恵印法流にて入壇。57年、第1回八千枚護摩を成満。以後、成満50回に及ぶ。また他の法流をも相承し、野沢諸法流総許可を受く。平成12年、伝燈大阿闍梨位。30年あさか大師香林寺を開山。初代山主となる。『九星気学立命法』(青山社)など著書多数。中医師、整体師、書家、随筆家として活躍する一方、九星気学、茶道、花押、古美術、挿花などにも精通する。