2016年10月号
特集
人生の要訣
  • ウィルフォワード所属人材育成トレーナー佐藤政樹

劇団四季で学んだ
一流プロの心得

劇団四季。言わずと知れた日本を代表するミュージカル集団である。23歳のフリーターから5年掛かりで合格を果たし、入団8年目で主役の座に就いた佐藤政樹氏、40歳。数々の失敗と挫折を乗り越え、夢を摑んできた波乱万丈の人生を振り返りつつ、劇団四季で学んだ一流プロの心得について語っていただいた。

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「徳は孤ならず、必ず隣有り」

就職活動をドロップアウトしたフリーターから一転、劇団四季と気象予報士のダブル合格を決意したのは23歳の時でした。無謀な挑戦と言われながらも、バレエや声楽、演劇のレッスンを受ける傍ら、合格率約4%という難関の国家資格の勉強をし、必死に努力し続けること5年。28歳を目前にして2つの目標を同時に叶え、プロの世界に飛び込みました。

劇団四季では、狭き門を潜り抜けてきた約500名の俳優たちが鎬を削る中、入団8年目で遂に主役の座に就き、その際、世界トップクラスの演出家や音楽監督、ダンサー、俳優の方からマン・ツー・マンの指導を受けたのです。そこで感動とは何か、どうすれば人に伝わり、共感が生まれるのかといった、人前に立って表現する者としての心構えや原理原則を徹底的に学びました。

一方、主役というのは断崖絶壁を命綱なしでたった一人登るようなプレッシャーが常につきまといます。僅かな音程の狂いも些細なミスも一切許されません。私はその極度のプレッシャーに晒され、精も根も尽き果て、主役を務めた1か月の公演が終わった後、舞台に立つ意欲がなくなってしまったのです。完全なる燃え尽き症候群でした。自分に嘘をついて舞台を続けましたが、精神的限界を感じ退団届を出しました。2011年のことです。

周りの何気ない会話がすべて自分への悪口に聞こえてしまい、輝いている人を見るだけで落ち込んでしまう。自分は生きている価値がない……。そう考えるほど深刻な状態に陥ってしまいました。

ちょうどその頃、ある経営者から高校生たちに夢について語ってほしいと頼まれ、初めて講演する機会を得ました。私は必死に考え、23歳のフリーターから劇団四季の主役まで這い上がった経験を1時間半赤裸々に語りました。

すると、どうでしょう。高校生たちが目をキラキラ輝かせて私の話を聞いているではありませんか。中には「大人から始めて夢を叶えられるのなら、僕は何でもできるのではないかと勇気をもらった」という感想があり、いたく感銘を受けました。挫折と失敗だらけの私の経験は多くの人に夢や希望を与えることができるのだと気づき、教育者として人生の第2幕をスタートする志を立てたのです。

ところが、志だけでは当然食べていけず、飛び込み営業をしたりと、鳴かず飛ばずの生活が続きました。そんな私を支えてくれたのは、『論語』のある一節でした。

「徳は孤ならず、必ず隣有り」

たまたま知人に誘われて参加した勉強会でこの言葉と出逢い、救われるような思いがしました。以来、この言葉だけを信じてやってきました。最初は孤独かもしれないけれども、志があればだんだん応援してくれる人が集まってくるはずだ、と。

その後実際に、私が劇団四季で培ってきた、人に感動を伝える本質を、企業の人材育成に生かせるよう研修プログラムに変換してくれる素晴らしい仲間との出逢いがあり、世界が開けていきました。

普段使う言葉の意識を変えることで営業力が上がった、コミュニケーションが円滑になり組織が活性化した、などの口コミが全国に広まっていき、いまでは上場企業での研修や経営者の個人指導を初め、年間100~150本の企業研修、講演をさせていただいています。

「徳は孤ならず、必ず隣有り」

いま、この言葉がまさに実感として迫ってくるのです。

ウィルフォワード所属人材育成トレーナー

佐藤政樹

さとう・まさき

昭和50年静岡県生まれ。平成10年明治大学卒業後、フリーターとなる。その後、劇団四季と気象予報士のダブル合格を決意し、23歳からクラシックバレエに挑戦。5年後ダブル合格を果たし、平成15年劇団四季入団。『ライオンキング』『ハムレット』などへの出演を経て、入団8年目に『人間になりたがった猫』で主役を務める。現在は劇団四季での経験をもとに、企業や教育機関で研修や講演を行っている。著書に『幸運は、なぜ「むこう」からやってくるのか』(学研パブリッシング)。