2026年10月号
特集
運をつかむ
インタビュー①
  • 岩泉ホールディングス社長山下欽也

当たり前に思える
一つひとつが
奇跡そのもの

日本初のアルミパウチ(アルミ性の袋)入りヨーグルト「岩泉ヨーグルト」を筆頭に、岩手県岩泉町の自然の恵みと手間隙をかけた製法にこだわった数々の商品が人気を博す岩泉ホールディングス。かつては3億円近くの累積赤字がありながらも、今日の発展を遂げるに至ったのはなぜか。創業5年目の社長就任以来、同社を牽引してきた山下欽也氏にその挑戦の軌跡を伺う中で見えてきたもの。それは、運をつかむ要訣に他ならない。

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    岩泉ホールディングス社長

    山下欽也

    やました・きんや

    昭和31年岩手県岩泉町生まれ。50年岩泉高等学校卒業後、農業の専門学校に入学。51年JA岩泉町に入組。平成17年岩泉乳業に入社。工場長を経て、21年社長に就任。28年ホールディングス体制に移行。著書に『あたりまえという奇跡』(センジュ出版)がある。

    取材は東京から新幹線と車で約5時間半、美しい山々に囲まれた岩手県いわいずみ町にある岩泉ホールディングス本社にて行われた。

    ロングセラーの秘訣は町の魅力を伝えること

    ――大谷翔平選手が〝世界一〟と絶賛するヨーグルトのメーカーがあると伺い、やってまいりました。

    ここ岩泉町は町で本州一の広さを誇り、総面積の93%を山林が占めています。そのため山の恵みが非常に豊富で、明治時代から産業として酪農が根づいてきました。当社の前身となる岩泉乳業は2004年に創業され、以来乳製品を筆頭に岩泉町の素材を生かした商品開発を続けています。
    中でも、日本初のアルミパウチ入りヨーグルト「岩泉ヨーグルト」は今年(2026年)発売から18年を迎えました。その人気に火をつけてくれたのは、紛れもなく大谷選手です。3年前に地元・岩手の名物を尋ねられた大谷選手の記事が公開されるや否や、通販の売り上げが7倍に跳ね上がりましてね。製造が追いつかないほどの反響でした。
    いまでは全国47都道府県のスーパーにまで販路を広げ、1日の製造量は平均15トン。1人あたりの食事量を1日100グラムで換算すると、約15万人の方々が毎日私たちのヨーグルトを食べてくださっていることになります。

    ――人々をとりこにする岩泉ヨーグルトの魅力を教えていただけますか。

    大きな特徴は、もっちりとした食感、地元で取れる新鮮な生乳ならではの風味でしょうね。この独特の食感と深い味わいを生み出しているのが、「低温長時間発酵」という製造方法です。
    乳業メーカーの大半は大量生産するために、可能な限り温度を上げ、短時間で発酵させます。一方、我々は通常の4倍ほどの18~20時間かけ、低温でじっくり発酵させる。コストとひまを惜しまないことで、より生乳に近い風味を保つことができるんです。
    ただ、老若男女から支持される一番の理由は、商品力ではないと思っています。当社は商品を通して、町の魅力を売っているんです。

    ――ああ、町の魅力を伝えている。

    もちろん商品力は必要ですが、地方から全国に展開するのは容易ではありません。では、我々にしかないものは何か。それは生産者、岩泉町の自然の恵みだと。この土地に光を当てる発信に注力してきたからこそ、ロングセラーにつながっていると思います。
    他にも、地元の観光名所「りゅうせんどう」の水を使用した飲料水やスキンケア用品、岩泉の生乳を練り込んだイタリアンジェラートなど、多くの商品が人気を博しています。岩泉ヨーグルトという主力商品はありますが、商品に絶対はない。そういう意味では、死ぬまで商品開発を続けたいと考えています。
    2019年には地域の活性化を図り、シイタケを製造する岩泉きのこ産業、ホテルを運営する岩泉総合観光を子会社化しました。おかげさまで2025年の売上高はグループ全体で45億円を記録し、従業員数は300名を超えるまで発展を遂げています。私たちが岩泉町の広告塔になっていれば、これほど幸せなことはありません。

    添加物を一切使わずに、岩手の厳選した生乳と乳酸菌だけでつくられた 「岩泉ヨーグルト」。もっちりとした食感と生乳のこく深い味わいが特徴