2025年6月号
特集
読書立国
私の読書立国論4
  • 大垣書店会長大垣守弘

書店文化を守れ!

人口過密の東京においてさえ、近隣住民に愛されてきた街の書店が次々と姿を消す昨今。読書の入り口となる書店文化が危機に瀕している。一方、京都に根を張りつつ、この10年で直営店を2倍に増やしているのが大垣書店だ。経営難に喘ぐ地方書店の再建にも取り組む大垣守弘会長に、活路を伺った。

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日本の書店文化衰退に一矢報いるために

「いまどき、本を買うなんて考えられないよな」

先日、ある児童書の出版社の社長から聞いた話です。東京の上野恩賜おんし公園で毎年5月に開催されている親子向けのブックイベントにて、昨年(2024年)、通りすがりの大学生がこうつぶやいたのだそうです。

スマホ一つで様々な電子書籍が読めるいま、そんな声が上がるのも無理はありません。書店人として、現代とはこういう時代なのだ、と再認識する出来事でした。

出版科学研究所の調査によれば、2024年の日本の出版物の売上額(紙と電子の合計)は1兆5,716億円。ピークだった1996年から現在までの約30年で、4割にまで落ち込んでいます。

それに伴って、日本の書店の数も年々、目減りしています。出版文化産業振興財団が、書店のない市町村は全自治体の4分の1を上回った(2024年3月)と発表しています。書店で本が買えない街が増え続けているのです。

30年前といえば、大都会に限らず街のそこかしこに書店があり、客足が絶えませんでした。それは当時の諸外国では見られない、異常とさえ言える活気でした。思い返すと隔世かくせいの感がありますが、私は祖父が京都に創業した大垣書店の経営を2000年に引き継ぎ、何とか歩んできました。

書店業は利益率の低い商売で、業容を拡大してもひだり団扇うちわとはなりません。それでも、当社の顧問税理士はじめ関係者に不思議がられながら出店を続けてきました。おおなことではなく、人が本に触れる機会を増やし、本のよさ、価値を理解してほしい一心だったと言えます。結果、この10年で直営店の数が2倍(現在57店舗)になり、30年増収を記録したのは、思いがけないことでした。

2023年、日本一高いビルとして注目を浴びるあざだいヒルズに関東圏で初となる直営店を開店。森ビルさんから出店依頼があった時は悩みましたが、最終的に出店した決め手は同社が施設を通した〝街づくり〟を目指していたことです。京都で大切にしてきた地域密着の〝街の本屋〟ならできる。意義があると感じたからです。

大垣書店会長

大垣守弘

おおがき・もりひろ

昭和34年京都府生まれ。57年立命館大学卒業後、祖父が創業した大垣書店に入社。平成12年社長。令和3年より会長、グループ代表取締役。平成23年に書店12法人で構成する㈱大田丸を設立、社長に就く。