2019年10月号
特集
情熱にまさる能力なし
インタビュー③
  • 明治大学ラグビー部監督田中澄憲
明大ラグビー部

日本一への道のり

昨シーズン、明治大学ラグビー部を22年ぶりの日本一に導いた監督の田中澄憲氏。田中氏はその前年度にヘッドコーチに就任して以来、今日まで選手に意識の重要性を訴え続けてきた。2年間で驚くべき変化を遂げたチームの成長の要因は何だったのか(写真:2019年1月12日、全国大学選手権で22大会ぶりに優勝を飾った明治大学ラグビー部の選手たち ©時事)。

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意識の変化がチームを優勝に導く

——田中監督は昨シーズンの全国大学選手権で、明治大学ラグビー部を22年ぶりの優勝に導かれました。監督就任1年目にしての快挙でしたね。

監督になる前の1年間はヘッドコーチを務めていますから、僕としては2年で優勝できたという感覚です。優勝した前年、決勝戦で帝京大学に1点差で敗れたのですが、そこで選手たちの意識が大きく変わりました。優勝の要因はそこだと思います。

——負けて意識が変わった?

明治大学は19年もの間、決勝戦に進んでいませんでした。毎年、日本一を目指すと口では言っていましたが、ではどれだけ本気だったのかとなると、日本一になるために何をすべきかを知っている人はいないわけです。要するに負け癖がついてしまっていたわけですね。
僕はヘッドコーチ1年目で日本一になれる道筋を示し、それにのっとって選手たちも一所懸命に練習に打ち込んで決勝戦に進み、負けはしたけれども帝京大学を追い込むことができた。これが選手たちの自信につながりました。

——帝京大学は9連覇を果たした強豪です。互角の戦いを繰り広げたことが、その後の勝ち抜く力になったのですね。

やることをやったら必ず結果は出る、来年こそは絶対に日本一になる、という覚悟がそこで生まれました。負けを含めて、その後の試合すべてがチームにとって成長する機会になったと思います。
昨シーズンは秋の関東大学対抗戦で慶應義塾大学や早稲田大学に敗れたことで4位扱いで大学選手権に進みましたが、敗戦をエネルギーに変え、課題を克服しながら成長することができました。その結果、厳しいトーナメントを勝ち抜き、決勝戦では5点差で天理大学を制することができました。

——22年前の優勝の時、明大の選手として活躍されていた田中さんが、今度は監督としてチームを優勝に導かれたのも不思議な巡り合わせでしたね。

特段そのことは意識しませんでしたが、僕自身、学生時代に優勝を経験したことで社会人となってからも戦える自信がつきましたので、いまの選手たちにもそういう自信をぜひつけさせてあげたいと思っていました。どうしたら日本一を取れるのか。それはスポーツでも組織でも原則はあまり変わらないのではないでしょうか。
日本一は、選手たちの努力や実力だけでは達成できないんです。試合に出ないメンバーもスタッフも自分たちの手で日本一にするという高いモチベーションを保ててこそ達成できるんですね。昨シーズンの優勝も彼らが献身的に選手を支えてくれたことが、とても大きかった。また、そういうことができる人間は社会でも通用すると思います。

——次のシーズンに向けて、どのような心構えで取り組まれていますか?

今度は追われる立場になるわけですから、いままでと同じことをやっていては勝てない。学生たちは「真価」というスローガンを決め、サブタイトルとして「ハングリー」「ディテール」「アクション」という3つの言葉を掲げました。チャンピオンになったからこそハングリーにならなくてはいけないし、細部にこだわり、自分からアクションを起こして、やり切っていく。大事なことはこの3つに凝縮されていると思います。

明治大学ラグビー部監督

田中澄憲

たなか・きよのり

昭和50年兵庫県生まれ。明治大学在学中はラグビー部主将を務め、卒業後、平成10年サントリー入社。23年現役を引退し翌年サントリーのチームディレクター。29年明治大学ラグビー部ヘッドコーチ、30年監督に就任。