2016年7月号
特集
腹中書あり
我が人生の腹中の書①
  • グロービス経営大学院学長堀 義人

読書を通じて
自分にとっての
「解」を探し求める

日本最大のビジネススクールとして知られるグロービス。いまから24年前、30歳で同社を立ち上げた堀 義人氏は、最も経営が厳しかった創業期に書物を渉猟し、経営者としての核を築き上げた。その読書量は延べ2,000冊以上にも及ぶ。その中でも特に影響を受けた本と言葉、次世代を担うリーダーに伝えたい先賢の教えについて語っていただいた。

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腑に落ちるまで徹底的にまとめ読みする

僕はノンフィクションしか原則として読みません。なぜなら事実を綴ったもののほうが作り話より迫力をもって伝わってきて、断然面白いからです。成功者が過去にどんな逆境や試練、挫折、苦悩を乗り越えてきたのか。その体験を知ることが、各人の人生にとって重要な意味を持つと思うのです。

もっとも、読書の入り口としてはフィクションが適当でしょう。僕自身、小学生の時は探偵小説をよく読んでいましたし、高校時代も三島由紀夫の『仮面の告白』をはじめ、長編小説を随分読み耽ったことを覚えています。

高校では、進学校には珍しく選択制のゼミがあり、僕は現代国語のゼミを受講しました。受験勉強と全く関係なく、全員が自分の好きな本を読んできた上で、感想や印象に残った言葉などを1冊あたり1枚のレポートにまとめ、発表及び意見交換をする。それが僕には非常に刺激的でした。

ところが、京都大学工学部に進学して以降、住友商事に入社してからも、社内留学制度でハーバード・ビジネス・スクールに2年間留学した時も、読書から遠ざかった生活を送っていました。そんな僕が本当の意味で読書の面白さに目覚めたのは、グロービスを立ち上げた平成4年、30歳の時です。80万円を元手にアパートの一室に事務所を設け、ほぼ毎日徹夜の連続で仕事をしながらも、本を読み漁るようになったのです。

やはり志を立て、そこに向かって寸暇を惜しんで必死に打ち込んでいる時ほど本を求めるし、その言葉に力をもらえるのでしょう。

ハーバードで体系的に経営学は学んでいたものの、実際に会社を経営するとなると分からないことが山ほど出てくる。いまのようにインターネットがなかったため、一つのテーマにつき、関連する本を10冊から20冊、多い時は100冊以上、徹底的にまとめ読みをしていきました。

人はなぜ生まれて、何のために仕事をするのか。リーダーとして必要な素養は何か。人がついていく人間的な魅力とは何か。日本の歴史とは何か。日本人のアイデンティティーとは何か。密教とは何か。陽明学とは何か……。

このようなまさに『致知』が説く世界から、よい文章の書き方、スピーチが上手になる秘訣といった実用的なものまで、僕が求めてきたテーマは多岐にわたります。

シャワーを浴びるようにまずは頭の中に膨大な知識を入れ、そこから自分に必要な知識を取捨選択していく。自分にとっての「解」が見つかるまで、つまり腑に落ちるまで一つのテーマについて本を読み続ける。確固たる考え方が定まって初めて、次の違うテーマに移っていくという具合です。気がつけば、本棚には2,000冊を超える書物が並んでいました。

この読書法はいまでも実践していることですが、最もハードワークだった創業期から経営が軌道に乗るまでの約5年間、真理を求めるために広く書物を渉猟したことは、僕の血となり肉となり、経営者としてのベースになる固有の視点をつくり上げたと思っています。

グロービス経営大学院学長

堀 義人

ほり・よしと

昭和37年茨城県出身。61年京都大学工学部卒業後、住友商事入社。平成3年ハーバード大学経営大学院修士課程修了。4年住友商事を退社し、グロービスを設立。8年グロービス・キャピタル、11年エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。18年グロービス経営大学院を設立、学長に就任。著書に『日本を動かす「100の行動」』(PHP研究所)『吾人の任務』(東洋経済新報社)など。