2019年11月号
特集
語らざれば愁なきに似たり
インタビュー②
  • フリーキャスター、清水健基金代表理事清水健

瞳の奥に隠された思いを
汲み取れる人でありたい

妊娠をしながらの乳がん治療。苦難の道のりを迷うことなく突き進んだ清水奈緒さんは、息子を出産した112日後に、29歳という若さで天国へと旅立った。夫で元読売テレビキャスターの清水健氏は現在、がん撲滅のための講演活動に注力している。清水氏が語ったシングルファーザーとしての奮闘、活動に懸ける思い――。

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すべての心で一人ひとりに向き合う

——清水さんは現在、奥様の闘病体験を基に、がん撲滅ぼくめつのための活動に注力されているそうですね。

はい。妻の奈緒は2014年3月に妊娠が分かった翌月、妊婦検診で乳がんをわずらっていることを告げられたんです。胎児に影響を与えない範囲で治療を続けていたものの、息子を出産して112日後に29歳で僕たちの横からいなくなってしまいました。
僕たちの人生を記すことによって、いまを向き合っていらっしゃる方にエールを贈ることができるならばと『112日間のママ』という一冊の本にまとめさせていただきました。自分でもびっくりするくらい反響があって、本をきっかけに本業だったキャスターという仕事以外に講演の機会を次々といただくようになりました。そのため翌2017年に16年間勤めた読売テレビを退社して、講演活動に尽力するようになったんです。

——キャスターを辞めて打ち込むほど、この活動に懸けていらっしゃるのですね。

自分のわがままです。多くのご迷惑もご心配もおかけしています。これまでの2年半で約300件、3日に1回のぺースで講演してきました。講演ってその場限りで終わってしまうことが非常に多いので、僕はその出逢いを少しでも広げていくことを大事にしたいと思っています。例えば、講演後にお手紙やSNSを通じてメッセージをいただくことがありますが、時間がある限り、一つひとつ応えていきたいなと思っているんです。

——すべてご自分で?

はい。手紙を書くというのは時間もエネルギーもかかることなので、送ってくださった方々への感謝も込めて、直接自分で返事を出しています。返信だけで一日が終わってしまうこともしょっちゅうあります。それでも、見ず知らずの第三者である僕に気持ちを吐露とろしてくださったこと自体が非常にありがたい。「全心ぜんしん」と僕は表現しているんですけど、すべての心でもって、皆さんの気持ちに向き合っていきたいと思っています。

フリーキャスター、清水健基金代表理事

清水健

しみず・けん

昭和51年大阪府生まれ。中央大学文学部社会学科卒。平成13年読売テレビに入社。21年から夕方の報道番組「かんさい情報ネットten.」を担当し、「シミケン」の愛称で親しまれる。25年スタイリストの奈緒さんと結婚。翌年長男が誕生。その112日後に奈緒さんが亡くなる。28年一般社団法人清水健基金を設立し、代表理事に。29年読売テレビを退社し、子育てをしながら全国で講演活動を行っている。著書に『112日間のママ』『笑顔のママと僕と息子の973日間』(共に小学館)がある。