2018年3月号
特集
てん ざいしょうずる
かならようあり
インタビュー②
  • アジア教育友好協会理事長谷川 洋

人のためになる喜びほど
崇高な喜びはない

アジア教育友好協会理事長の谷川 洋氏は60歳を機にサラリーマン生活にピリオドを打ち、同協会を設立。現在まで13年間でアジア6カ国に271校の学校をつくってきた。現地の住民や日本の子供たちを巻き込んだ学校づくりは、感動と笑顔の輪を次々に広げている。74歳のいまも旺盛な行動力で現地を駆け回る谷川氏に、活動の現況と自らの天命との出会いについてお話しいただいた。

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学校の持つ3つの力

——谷川さんは2004年6月に「アジア教育友好協会(AEFA)」を設立され、アジアの途上国に数多くの学校を建ててこられました。

現在建築中の10校を含めて13年間で271の学校をつくりました。国別では159校がベトナム、91校がラオス、タイ、中国、ネパール、スリランカで21校です。ちなみにまだ1校もつぶれていません。
  
——1校も潰れないというのは稀有けうなことだそうですね。

ええ。私たちは援助が一方通行にならないよう、現地の住民にも学校づくりに参加してもらっているんです。それが「自分たちがつくった学校」という誇りになっています。2005年に小学校をつくったラオスのパチュドン村では、その後もAEFAは、中学校、高等学校、幼稚園を追加建設し、いまではその地域の基幹学校になっています。まさに「産み育て見守る」の実践です。同様な基幹校はこれまでの13年間で5校になりました。
学校には3つの力があると思うんです。一つは「求心力」です。学校建設が引き金となって村がまとまる。子供の教育のためという普遍的な目的を掲げることで村人が一つになるんですね。なおかつ村人に自分たちでつくった学校という誇りを持たせると、自分たちで学校を守り育てようとします。
また、学校建設の時に仲間と協同したという自信が村の「発展力」になり、それがやがて「融和力」になって、交流のなかった村同士が仲よくなっていきます。

——どういうことですか?

例えば高等学校をつくると、その村の子供だけではなくて遠くの村からも子供がやってきます。子供同士はすぐに親しくなりますが、親は毎日山へ仕事に行って家に帰ってくる生活で、隣の村にどんな人がいるかも知らない。そういう親たちが学校の開校式で顔を合わせて仲よくなって、そこから村同士の交流が始まるんです。つまり学校が村と村とを融和する源になっているわけです。
彼らは少数民族で互いに恥や誇りを持っています。それが争いの火種になる場合もあるのですが、親同士の横のつながりができると争いを未然に防ぐこともできます。
この3つの力を発揮させるために1番大事なのは現場主義です。自分が行って、自分で見て、自分が納得した上で学校をつくる。単に学校をつくりましたというのでは心が通わない。相手を本気にさせるには、こちらが本気だということを見せなくてはいけません。
  
——なるほど。

AEFAのもう一つの特色は、現地の子供だけでなくて日本の子供たちの成長に貢献したいと考えている点です。学校をつくれば現地の教育現場は間違いなく改善されます。しかし、それで満足するのではなく、現地の子供たちの素朴でたくましい生き方や親を尊敬して人のためになろうとする気持ちを日本の子供たちに伝えたいと考えました。
そのために日本の小・中学校で「出前授業」という活動をしています。いままでに640回以上の出前授業を行っていますが、私たちが現地の子供たちの話をすると、目を輝かせて食い入るように話を聴いてくれます。実際に経験したことばかり話すので、テレビのニュースと違って手触り感があるのでしょう。話を聞き終わった子供たちが「僕たち負けそうだ。いまのままじゃいけない!」と言い出すこともあります。我われは現地の子供たちの生き方をありのまま話すだけなのですが、子供たち自身が気づくんですね。

アジア教育友好協会理事長

谷川 洋

たにかわ・ひろし

昭和18年福井県生まれ。東京大学卒業。43年丸紅入社。平成16年退社。同年アジア教育友好協会(AEFA)設立、理事長を務める。アジアの山岳少数民族のための小・中学校の建設、日本の小・中学生との交流プロジェクトを進めるなど、継続的な支援・運営に当たっている。著書に『奔走老人』(ポプラ社)。ベトナム文部省から「教育功労賞」。