2021年11月号
特集
努力にまさる天才なし
  • 明治大学サッカー部監督栗田大輔

一流を超一流にする努力論

明大サッカー部が結果を出し続ける理由

大学サッカー界において、2019年に史上初となる全5冠制覇の偉業を成し遂げた明治大学サッカー部。2015年に監督に就任した栗田大輔氏は、長年会社員として働く傍ら小中学生向けのクラブチームを設立・運営するなど、異色の経歴の持ち主である。そんな栗田氏に、明大サッカー部の強さの秘訣や日々の努力について、ご自身の歩みを交えて伺った(写真:2019年、総理大臣杯にて連覇を成し遂げた時。同大会で5年連続で決勝進出を果たし、大会史上初記録を樹立した)。

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明大サッカー部は人間形成の場である

「明治大学サッカー部はプロ養成所ではなく、人間形成の場である」

明治大学サッカー部を30年にわたって率いてくださった前総監督・井澤千秋さんの指導哲学です。

「礼節を重んじる」「for the team」「思いやりと謙虚さを持つ」……、サッカーさえうまければ何をしても許されるという甘えを排除し、人として当たり前のことを大切にしたこの哲学は、2021年創部100周年を迎えた我が部の伝統です。

通常練習はオフの月曜日を除いて毎朝6時から8時まで。これは神川かみかわ明彦前監督の時代から続く習慣です。大学生の本分は学校で学ぶことであり、練習できる時間を突き詰めたら朝になったと聞いています。結果として、それ以降の時間を有意義に使える上、自然と早寝早起きの習慣が身につき、生活が乱れがちな大学生でも規則正しい日々を送れます。

朝練の他、神川前監督から引き継いだのが週1回の夜のミーティングでした。これはグラウンドでのスキル指導以外に、選手の視野や考え方を広げ、精神面を養う座学の場です。私が思いを伝える他、企業の若手研修をアレンジして実施したり、分野を問わず活躍されている方をお呼びしたりと、様々な学びの機会を設けています。

おかげさまで明治大学サッカー部は全国屈指の強豪校として、またプロ選手輩出人数においても日本一と、大学サッカー界を牽引けんいんすることができています。私が監督に就任した2015年以降も、6年間で10個のタイトルを獲得し、プロを51名輩出できました。もちろんプロがすべてではなく、就職したメンバーも皆、それぞれの道で羽ばたいています。

しかし、私は自分たちを「強い」とは思っていません。大学スポーツは毎年選手が替わるため、その年その年が毎回必死の真剣勝負。もちろん〝やり方〟にはこだわりますが、気づいたら結果が伴っていた、というのが正直な感想です。

なぜ結果が出ているのか。自分なりに分析すると、まずは約60名の部員全員のベクトルがそろっていること。トップチームとセカンドチームの2チーム構成で日々練習を重ねていますが、自分の立ち位置に関係なく全員がトップを目指して全力を尽くしています。

2つ目は全部員を平等に扱い、特別なスターをつくっていないこと。明治出身の選手としては、長友ながとも佑都ゆうと室屋成むろやせいなどが世界で活躍しています。そうしたスター選手も初めからスターダムだったわけではなく、皆がつらい挫折を経験し、日々努力の中で成長してきました。そういう先輩の姿を後輩は間近で見て、世界で活躍するために必要な努力の基準を学んでいます。

そして3つ目が、細部にまで徹底してこだわること。挨拶や礼儀、練習用具の整理整頓せいとん、練習と練習の切り替えの早さなど、基本をおろそかにしないよう伝えています。一度妥協するとその空気が蔓延まんえんして一層悪化するため、選手たちに口うるさいと思われたとしても、特に厳しく指導しています。「環境が人をつくる」と言いますが、「その環境自体は人がつくる」というのが持論です。

また、満足の沸点が低いとそこで成長が止まってしまうため、私たちは「明治発世界へ!」を掲げ、限界を設けず高い目標にトライし続けています。

明治大学サッカー部監督

栗田大輔

くりた・だいすけ

昭和45年静岡県生まれ。幼少期からサッカーを始め、高校サッカー界の名門・清水東高校から明治大学へ進学。卒業後は清水建設に入社。会社では現在、ソリューション営業部・スポーツビジネス担当の部長を務める。平成17年に横浜市で小中学生を対象にしたクラブチーム「FCパルピターレ」を設立。25年に明治大学サッカー部のコーチ、26年に助監督、27年に監督に就任。28年には創部95年で総理大臣杯初優勝。31年度は各大会で5冠を達成。監督就任から6年で10個のタイトルを獲得、プロサッカー選手を50名以上輩出している。著書に『明治発、世界へ!』(竹書房)がある。