2016年4月号
特集
夷険一節
一人称
  • 明治大学教授齋藤 孝
日本最古の兵書『闘戦経』に学ぶ

日本人の闘い方

日本最古の兵書といわれる『闘戦経』。900年以上前から伝わる本書には、日本人が古来重んじてきた心構えや人生を生きる指針が説かれており、その教えはそのまま現代ビジネス社会にも通じると齋藤 孝氏は言う。本書が説く勝ち戦の原理原則とは何か。このほど本書を紐解いた『日本人の闘い方』を上梓した氏にそのエッセンスを語っていただいた。

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日本人による最古の兵書

『闘戦経』はいまから約900年前の平安時代末期に書かれた日本最古の兵書です。書いたのは朝廷の書物の管理をしていた大江家35代の大江匡房(1041~1111年)といわれています。大江家は中国の兵書である『六韜』『三略』『孫子』といった書物の管理もしていて兵法の大家でもありました。

兵書の中でも当時の日本では『孫子』が広く世に知られていたようです。『孫子』はいまから約2,500年前、孫武によって書かれたといわれています。その戦い方の基本は「兵は詭道なり」、つまり「戦いとは敵を欺くことにあり」というものでした。

しかし、大江匡房は「戦いの基本は敵を欺くこと」とする兵法は日本人のスタイルではないと考えたのです。ではどのように考えたか。

「ただ勝てばいいのではない。どんな時でも正々堂々と戦って勝つべきだ」と日本人の戦うスタイルを宣言したのです。そうした思いを込めて書かれたのが『闘戦経』だったのです。

その思いを大江匡房は『闘戦経』を納めた函に金文字で書きました。
「『闘戦経』は『孫子』と表裏す。『孫子』は詭道を説くも、『闘戦経』は真鋭を説く、これ日本の国風なり」

明治大学教授

齋藤 孝

さいとう・たかし

昭和35年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『子どもと声に出して読みたい「実語教」』『親子で読もう「実語教」』『子どもと声に出して読みたい「童子教」』など著書多数。最新刊に『日本人の闘い方 日本最古の兵書「闘戦経」に学ぶ勝ち戦の原理原則 』(いずれも致知出版社)。