2024年12月号
特集
生き方のヒント
対談
  • セイコーグループ会長服部真二
  • TOMAコンサルタンツグループ会長藤間秋男

100年続く企業は
どこが違うのか

1881年、時計の輸入販売と修理業として創業され、時代の流れに即応しつつ飛躍的発展を遂げたセイコーグループ。十代目社長で現在は代表取締役会長CEOとしてグループを率いる服部真二氏もまた、不採算事業会社の立て直しなど様々な改革をしながら、その伝統と歴史を引き継いできた一人である。同社の伝統と革新の歴史から見えてくる経営や生き方のヒントについて、服部氏の高校・大学の同期であり、コンサルタントとして多くの中小企業の百年企業づくりを支援し続けるTOMAコンサルタンツグループ会長の藤間秋男氏にお聞きいただいた。

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旧交を温め続けて

藤間 銀座のシンボルであるセイコーハウス(時計塔)にお招きくださりありがとうございます。
服部さんと電話でお話しすることはあっても、こうして直接お会いするのは久々ですね。

服部 そうですね。私も楽しみにしていました。きょうはどうかお手柔らかに(笑)。

藤間 こちらこそ。服部さんとは高校、大学と慶應の同期なわけだけど、服部さんは幼稚舎からのいわば慶應ボーイの正統派で、高校1年の時に全日本幼年テニス選手権で準優勝も果たされている。一方の僕はアメリカンフットボールをやりながら大学時代は酒や麻雀マージャンに興じて、あまり真面目な学生ではなかった。同じクラスになったことはなかったけれども、友人同士が親しかったこともあって高校を卒業した後も一緒にヨットやスキーを楽しんだりしましたね。

服部 最初に話した時のことはいまもよく覚えています。高校3年か大学1年の頃だったかな、学校の仲間と長野の白馬八方尾根のスキー場に行った時、藤間とうまさんがいてスロットマシーンをやっていたんです。すごいなと思って「どう、出るの?」と聞いたら「まあまあ」って。そこからの付き合いですね。でも、本当に友達として親しくなったのは例のサザンのカラオケ大会かな……。

藤間 ええ。僕が湘南で育ったこともあって、サザンオールスターズ以外は歌っちゃいけないというカラオケ大会を企画したんです。奥様がサザンのファンだというので服部さんもご夫妻で来てくださったんだけど、あれは相当昔かな。

服部 私はてっきり同級生の集まりだと思って参加しました。ところが行ってみると、同級生だけでなく藤間さんの会社の社員さんや、取引先の人だったりいろいろな人がいらっしゃる。「サザンが好きな人、集まれ」というひと言で垣根を越えた人の輪をつくって喜びを共有しようとする藤間さんの力量に私はいたく感心したんです。

藤間 皆とワイワイやるのが好きなだけですけどね(笑)。

服部 私は藤間さんのように麻雀はできなかった。高校から大学にかけてはテニスやスキーに熱中していて音楽が好きでしたね。いまも友達といえばスポーツ、音楽関係者が圧倒的に多い。私がスポーツや音楽の分野で活躍する人を支援する服部真二文化・スポーツ財団を創設したのも、元を辿たどればそういうところに行き着くのかもしれません。

セイコーグループ会長

服部真二

はっとり・しんじ

昭和28年東京都生まれ。慶應義塾高校、慶應義塾大学経済学部を卒業。昭和50年に三菱商事に入社。59年に精工舎(現セイコータイムクリエーション)入社。平成15年にセイコーウオッチ社長に就任。22年にセイコーホールディングス(現セイコーグループ)社長に就任。24年に代表取締役会長兼グループ最高経営責任者(CEO)に就任。29年には一般財団法人服部真二文化・スポーツ財団を設立し、世界に挑戦する音楽家とアスリートに服部真二賞を授与している。令和5年春の叙勲において旭日中綬章を受章。

ソリューションカンパニーとして社会の課題を解決

藤間 僕は経営コンサルタントとして多くの中小企業と向き合ってきましたが、1番の願いはというと、お客様に百年企業になっていただくことなんです。きょうは143年の歴史を刻んできた御社にもいろいろと学ばせていただきたく思っています。御社は2022年、セイコーグループと社名を変更されましたよね。いまはどんなことに力を入れているのですか。

服部 まず社名の変更についてお話しすると、それまでのセイコーホールディングスは持ち株会社で経営権や人事権があり、その下に多くの事業会社を束ねるという組織でした。だけど、これからは「束ねる」よりもむしろ「つないでいく」ことがより重要になるという思いもあって、「繋がる」ことによりシフトするためにも社名を変えることにしたんです。
我われの会社は1881年、私の曽祖父・服部金太郎が時計の販売と修繕業として創業しました。戦後までは時計の製造、販売事業がほとんどを占めていましたが、高度成長期に多角化を進めて時計用の半導体や電池など業容を広げていきました。システム部門に関しても外販するようになり、それがいまセイコーソリューションズという事業会社として時計に次ぐ柱に育っているんです。
お客様や社会の課題を解決するソリューションカンパニーとして成長していきたいというのが私たちの願いでもあるわけですが、セイコーソリューションズの事業でとりわけ世の中に知れ渡ったのが「タイムスタンプ」です。

藤間 ああ、電子データがある時刻に存在して、その後かいざんされていないことを証明するスタンプですね。御社のタイムスタンプは、情報保護の視点からもいまや社会インフラになっていますね。

服部 おかげさまで現在国内シェアの7割を占めるまでになりました。これも開発した2002年当初は鳴かず飛ばずだったんです。ところが、2015年以降、ペーパーレスの流れが追い風となって一挙に金融界に広まっていきました。「赤字でも事業撤退しない」という覚悟で臨んできた私たちにとっては、あきらめないことの大事さを教えられた事業でもありました。
創業者の場合も、明治初期に不定時法が定時法に変わるというチャンスをつかんで時計の製造、販売に先駆けて着手し、銀座に時計塔を建てて人々に時を知らせました。創業者はその時代のソリューションとして「時」というものを選んで挑戦を続けたんですね。そういう素地がいまも我が社に受け継がれているんです。

TOMAコンサルタンツグループ会長

藤間秋男

とうま・あきお

昭和27年東京都生まれ。慶應義塾高等学校、慶應義塾大学商学部卒業後、大手監査法人勤務を経て、130年続く藤間司法書士事務所の新創業として社員数ゼロで、57年藤間公認会計士税理士事務所を開設。 平成24年分社化し、 TOMA 税理士法人、TOMA社会保険労務士法人などを母体とする200名のコンサルティングファームを構築。 創業35周年を機に会長に就任。その後TOMA100年企業創りコンサルタンツを設立。著書に『永続企業の創り方 10ヶ条』(平成出版)『中小企業の「事業承継」はじめに読む本』(すばる舎)『社員を喜ばせる経営』(現代書林)『100年残したい日本の会社』(扶桑社)など多数。