2020年1月号
特集
自律自助
インタビュー③
  • 秋田県東成瀬村教育長鶴飼 孝

子供の自主自立の精神を
養う希望の授業

学力日本一 東成瀬村の秘密

文部科学省が平成19年から実施している全国学力テストで、開始以来トップクラスの成績を収め続けている秋田県。中でも人口僅か2,500人余りの東成瀬村の成績が特に高いといわれている。民間の塾がない豪雪地帯で、特別な教材を用いずにいかに子供たちのやる気を引き出してきたのか。その独立独歩の歩みを東成瀬村教育長の鶴飼 孝氏に伺った(写真:全校児童の将来の夢を掲示した「夢の木」)。

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地域づくりは人づくり人づくりは教育

——秋田県の東南端に位置する東成瀬村は、〝学力日本一の村〟として注目を浴びていますね。

ありがとうございます。文部科学省が実施している全国学力テストにおいて、秋田県は13年間連続でトップクラスの成績を収めています。市町村ごとの成績は公表されていないものの、2007年に当時の秋田県知事が「東成瀬中が秋田県で一番。小学校もいい」と言及したことで、一躍有名になりました。おかげで毎年、国内外から600名近い視察者が訪れているんです。

——海外からも来られるのですか。

韓国は毎年、それ以外にアジアや南アメリカ、アフリカなど様々な国から訪ねてこられます。「山間部にあり、最先端の技術を導入しているわけでない東成瀬村が成功できた要因こそを知りたい」「自国で活用したい」と、実際に教育現場に立たれる先生方が足を運んでくださるのです。
そもそも東成瀬村は秋田県内で2番目に小さな村で、人口は2,500人余り。村にはスーパーも民間の塾も書店もありません。面積の約93%が山林原野で覆われており、特別豪雪地帯に指定され積雪量は2メートルにもなります。
こう見ると大都市と比べてマイナス面が多く感じられるかもしれませんが、この村にしかない長所もたくさんあります。
まず特徴的なのが、3世代同居率が7割を超えていること。そして年に6回ある小学校の授業参観の参加率が120%に達していることです。一般的に20%もあればよいといわれる中、なぜ100%以上の数字になるのかといえば、祖父母世代が孫の姿を見に来るから。学校支援ボランティアの登録者は200名以上いて、防犯対策や環境整備などを手伝ってくれています。

——地域全体で子育てをしているのですね。

他にも保護者の経済負担の軽減に力を入れています。これはちょっと自慢ですが(笑)、学校給食は無料。交通費は小中学生が無料で、高校生は村が8割を援助。修学旅行費は半額負担。村が運営する夏の英語合宿も無料で、学習塾は一人1,000円で参加できます。

——保護者にとってはありがたい政策ばかりです。

一人当たりの年間図書費用も全国平均の約4倍の6,000円あるんです。東成瀬村には「地域づくりは人づくり。人づくりは教育」という考えが連綿と受け継がれていて、村の年間予算のうち約1割は教育に充てられています。自分の村は自分たちで守るという独立独歩の精神が非常に強いのですが、その背景に明治22年に東成瀬村が誕生して以来、一度も合併していないことが影響しているのは間違いありません。
昭和、平成の大合併の際も、財政メリットなどから統合案は何度も出ましたが、独立を貫いたのは村人たちの村に対する愛や誇りが強かったからです。

秋田県東成瀬村教育長

鶴飼 孝

つるかい・たかし

昭和19年秋田県生まれ。秋田大学教育学部英語科卒業後、18年間秋田県内で中学校教諭として働く。平成元年45歳からは行政機関に入り、秋田県教育庁義務教育課長、教育センター長を歴任。平成18年62歳の時に東成瀬村の教育長に就任。