2019年12月号
特集
精進する
インタビュー②
  • ヴァイオリニスト和波孝禧

精進は必ず喜びとなって
返ってくる

音楽に生き、生かされて

国内外での演奏活動や後進の育成など、日本を代表するヴァイオリニストして精力的な活動を続けている和波孝禧氏。全盲に生まれながらも、自らの人生を力強く切り開いてきた和波氏が語る、その精進の歩みと母や師の教え、そして音楽への思い――。

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自分が決めたことに誠実に生きてほしい

——和波さんは74歳になるいまなお、日本を代表するヴァイオリニストとしてご活躍ですね。

最近は室内楽に力を入れていましてね、毎年8月に開催している八ヶ岳サマーコンサートでは、必ず1~2曲は室内楽を演奏しています。松本での「セイジ・オザワフェスティバル」でもブラームスの弦楽六重奏を演奏したし、10月には別のメンバーと東京などで室内楽のコンサートがあって、2019年は室内楽の年という感じです。
というのも、演奏家は皆そうですけど、数人のメンバーと心を合わせて演奏する室内楽ができなければ、一人前じゃないみたいに言われるわけですよ。でも、僕は大学時代から思うように取り組む時間がなくて、ずっと後悔していました。だから、いま自分の主宰するコンサートなどで、仲間を集めて室内楽に打ち込めるのはすごく嬉しいことなんです。

——それは素晴らしいですね。

それに、もともと八ヶ岳ではサマーコース、講習会をメインにやってきましたから、その教え子たちと一緒に室内楽を演奏できるのも楽しみになっています。
若い人たちが毎年成長して、年々室内楽のアンサンブルが深まっていく。それが自分の生きがい、勉強になり、また自分自身も変わらなきゃいけないという思いにもつながっているんです。なので後輩たちと室内楽をやる時は、年寄りの僕が中心となるよりも、若い人が自由にディスカッションできる雰囲気づくりに努めています。

——後進の若い人たちには、どのようなことを伝えていますか。

いまの若い人は、僕らの世代が苦労して習得したような技術をあっさりやってのけてしまいます。そこには、山頂まで汗水らして歩いて登るのと、ヘリコプターで登るくらいの違いがあるように感じるんです。だから、内面的な苦労や葛藤かっとうが彼らの音楽になかなか出てこない。その点は、一緒に食事などしながら自分の体験やいろいろなイメージを交えて伝えてあげていますね。イメージを共有するだけで、感性の豊かな若い人は演奏が変わってくるんですよ。
あと、自分がこれがしたいと思ったことに対しては、とにかく誠実に生きていってほしい、途中であきらめてしまったり、中途半端にはしないでほしいということもよく伝えています。これは母が僕にいつも言っていたことでもあり、自分自身へのいましめでもあります。

ヴァイオリニスト

和波孝禧

わなみ・たかよし

昭和20年東京都生まれ。4歳よりヴァイオリンを始め、辻吉之助、鷲見三郎、江藤俊哉の各氏に師事。37年第31回日本音楽コンクール第1位、特賞。その後、パリやロンドンなどの国際コンクールに上位入賞。「点字毎日文化賞」「文化庁芸術祭優秀賞」「サントリー音楽賞」などを受賞。平成17年紫綬褒章、27年旭日小綬褒章。また桐朋学園大学と毎夏開催する「八ヶ岳サマーコース」で後進の指導に当たっている。著書に『音楽からの贈り物』(新潮社)『ヴァイオリンは見た』(海竜社)などがある。