2019年12月号
特集
精進する
インタビュー③
  • 家政婦タサン志麻

好きだからこそ
悩み苦しみ、努力ができた

〝伝説の家政婦〟と呼ばれるまで

〝予約の取れない伝説の家政婦〟として、様々なメディアを賑わせる女性、それがタサン志麻さんである。一流フランス料理人として働きながらも自分の理想を追い求め、30代半ばでようやく天職に巡り合えたタサンさんの努力の軌跡は、まさに精進そのものだ。

この記事は約10分でお読みいただけます

家族で楽しく食事をする時間

——タサンさんは〝予約の取れない伝説の家政婦〟として、大変注目を浴びていらっしゃいますね。

ありがとうございます。2015年にフリーランスの家政婦として働き始めたんですけど、ほどなくしてスケジュールが空くのをお待ちくださるお客様が列をなす状態となり、それに注目した様々なメディアの方が「予約の取れない伝説の家政婦」として私の活動を取り上げてくださるようになりました。
一般的に家政婦をやられている方って、主婦の方が多いんですね。その中で私は約15年間有名フレンチの厨房ちゅうぼうで働いていたという特殊な経歴があったため、ニュースにしやすかったのかもしれません。

——各家庭の好みに応じた料理を3時間で15品もつくられるそうですね。

ええ。フランス料理が専門でしたが、いまは和洋中、ジャンルを問わずつくっています。当然、依頼があった家庭によって調理器具や設備、用意してある食材の種類や量など、まったく異なりますし、家族構成も味の好みも違います。それでも毎回その場に行って頭をフル回転させながら、各家庭に合わせようと心掛けています。
レストランで働いていた時は、最高の設備と最高の食材を使って自分がおいしいと思う料理を提供していましたが、ハードルが高い印象のあるフレンチよりも、家庭的な料理にかれていた私にとって、家政婦という仕事を通じて日常的な食事をつくれることは、非常に嬉しいですね。

——ハレの日の食事でなく、家庭料理を大切にされているのですね。

ええ。おかげさまで「家族と一緒にゆっくり食事ができるようになり、夫婦間のコミュニケーション不足も解消されました」といった嬉しい声をたくさん寄せていただいています。「人に家事を任せることは手抜きではないか」と罪悪感を抱く女性もいらっしゃいますが、誰がつくったかではなく家族で楽しく会話をしながら食事をする、その時間のほうが貴重だと私は感じています。
4か月前に2人目を出産したばかりで、いまは家事代行のお仕事は育休をいただいているんですけど、この仕事に出逢えてよかったと心から思います。

家政婦

タサン志麻

たさん・しま

辻調理師専門学校、同グループフランス校を卒業後、フランスの三ツ星レストラン「ジョルジュ・ブラン」での研修を修了。帰国後、日本の有名フランス料理店等で15年間働く。平成26年にフリーランスの家政婦として独立。各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び、〝予約が取れない伝説の家政婦〟と呼ばれるようになる。著書に『志麻さんのプレミアムな作りおき』『厨房から台所へ』(共にダイヤモンド社)など多数。