2025年12月号
特集
涙を流す
対談
  • 高千穂神社宮司後藤俊彦
  • ジャーナリスト葛城奈海

日本再生への祈り

世界で最も古い歴史を有し、長く続いている国、日本。初代の神武天皇がご即位されて以来、万世一系の皇統は126代にわたって連綿と受け継がれ、2685年を迎える。一方、今年(2025年)は大東亜戦争終結80年の節目でもあるが、敗戦後のGHQの占領政策により、日本人は古来大切にしてきた理念や文化、価値観を悉く捨て、根無し草になってしまった。いかにして心の背骨を取り戻し、その使命を果たすべきか。高千穂神社宮司の後藤俊彦さんとジャーナリストの葛城奈海さんが語り合う日本再生への祈り。先人たちに無念の涙を流させてはならない。

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    戦後80年の節目に最も憂慮していること

    葛城 4月に行われた致知出版社主催の「日本人の心の背骨をつくる一日集中講義」では仕事の関係で後藤宮司のご講話を拝聴できなかったことが心残りだったので、きょうはとても楽しみです。

    後藤 葛城さんのご講話に感銘を受け、ぜひ私もじっくりとお話ししたかったものですから、勇んでたかより参りました。

    葛城 今回のテーマは「日本再生への祈り」ですが、今年(2025年)戦後80年の節目を迎えた日本の現状を見るにつけ、私が最も憂慮しているのは、日本人が戦う気概を失くしてしまったことです。戦いと聞くと悪いことのように思えるんですけれども、何のために戦うのかが一番大切だと思っています。
    日本人は和を大事にする民族で、その象徴として聖徳太子の『十七条憲法』にある「和をもって貴しと為す」がよく挙げられますよね。私はもっとさかのぼって、初代のじん天皇が奈良の橿かしはらに都を建てられた時に出された「橿原てんみことのり」が原点だと考えているんです。

    後藤 「八紘あめのしたおおひていえむ」という「はっこう」の精神ですね。

    葛城 はい。私は戦後教育にどっぷり浸かって育ったので、かつては好戦的な軍国主義のスローガンみたいに思っていました。でも、『日本書紀』を読んでみたらまったく逆の意味で、すべての人々が一軒の家の中に住むように、皆仲良く暮らしていこうと。なんと素晴らしい建国の理念なのかと感動しまして、それまでの自らの不勉強と先入観を恥じたんですね。
    日本人が古来ずっと大切にしてきた理念や文化や価値観といった大切なものを守るためには、最終的には命を懸けてでも戦うという気概を取り戻していきたい。いざ戦わなければならない時にも戦うことから逃げてしまったら、和を守ることはできません。

    後藤 全く同感です。それに加え、戦後80年になれば歴史に対して深みのある総括や論議がなされるだろうと思ったのですが、そうなっていない。テレビや新聞でも、戦争は悲惨だから起こしてはいけないという議論が多くて、戦争がなぜ起きたのか、戦争を起こさないためには何が必要なのか、そういう大事な議論が欠落しているんじゃないかと感じますね。

    葛城 大東亜戦争開戦の時、昭和天皇はなぜ我々は戦わなければならないのかということを「宣戦のしょうしょ」としてきちんと国民に伝えてくださっていました。
    てんゆうヲ保有シばんせいいっけいこうメル大日本帝国天皇ハ」で始まり、中程に「ばんぽうきょうえいたのしみともニスル」という言葉が出てきます。これはすべての国が共に栄えるという意味で、建国の理念「八紘為宇」とも重なりますよね。
    この詔書を初めて読んだ時に、とても心を揺さぶられ、決して他国を侵略するために戦ったわけではない。日本の自存自衛と永遠の平和を守るために、やむなく戦わざるを得なかった。そういう戦争だったことがいちもくりょうぜんでした。
    それがいまの戦後世代にはほとんど正しく伝わっていないと思います。見事にGHQの術中にはまってしまって、日本は侵略戦争をした悪い国だという歴史認識がいまだに学校教育の現場では主流として教えられている。これを何とかあるべき姿に戻していかなければいけないと思っています。

    高千穂神社宮司

    後藤俊彦

    ごとう・としひこ

    昭和20年宮崎県高千穂町生まれ。43年九州産業大学商学部卒業後、参議院議員秘書となる。國學院大學神道学専攻科並びに日本大学今泉研究所を卒業し、56年高千穂神社禰宜を経て宮司に就任。同神社に伝わる国指定重要無形民俗文化財「高千穂夜神楽」のヨーロッパ公演を二度にわたって実現。62年神道文化奨励賞受賞。神道政治連盟副会長、高千穂町観光協会会長などを歴任。令和3年神社本庁より神社界最高位の「長老」を授与される。著書に『日本人なら知っておきたい日本の神話九選』(致知出版社)など。

    いまも神話の中に生かされている

    後藤 GHQの占領政策は日本人の軍事的な武装解除と精神的な武装解除、この2つを徹底的にやり、二度と再び日本が欧米に逆らわないようにするのが目的でした。
    特に精神的な武装解除の点で力を入れたのが、日本及び日本人の歴史と、その源流となる神話をはじめとする古典教育の禁止です。その狙いは日本の国柄の象徴ともいえるご皇室と神道の弱体化にあったんですね。この流れはいまも変わっていません。

    葛城 私の知人のカウンセラーが、若者に自殺や精神疾患が多いのは家庭環境に問題があると思っていたと。それ自体間違いではないけれども、もっと根源的には、正しい歴史観を身につけていないことで日本人としての根っこがなく誇りも持てない。そのほうが重大な背景だと気づいたとおっしゃっていて、強く共感したんです。
    神話なんて歴史的事実じゃないから教育する必要がないっておっしゃる方がいますよね。私は歴史的事実でもあると思っているのですが、百歩譲って事実でないとしても、私たち日本民族が大切に受け継いできたのはまぎれもない事実なので、そこに価値を見出すべきではないかと思います。
    その意味で、後藤宮司が『日本人なら知っておきたい日本の神話九選』という本をまとめてくださったのは大変ありがたいですし、とてもき込まれる筆致で飛行機の中で一気に読み終えました。

    後藤 ありがとうございます。
    私は昭和20年の終戦の年に生まれましたが、神話が歴史的事実ではないという考え方は当時から一般的でしたし、若い頃はそう言われるとそうだなと思わないでもなかったわけです。
    ところが、いまから20年くらい前にこんなことがありました。隣町の小学校の遠足が雨で中止になりましてね。先生が神社に来て、「何か話をしてください」とおっしゃった。突然のことで困ったなと思ったんですけど、子供たちが既に集まっているものですから、日本神話をいくつか語り聞かせました。すると子供たちの目がキラキラ輝いたんですね。
    そういうことはその後も頻繫ひんぱんにありまして、昨年も高千穂小学校の4年生の授業で1時間、話してほしいと。当社の神楽かぐら殿でんに集まってもらい、神話や高千穂の歴史について話したんですね。生徒だけではなく若い先生方も初めて聞くものですから、前のめりになって真剣に耳を傾けてくれました。

    葛城 学校の教室じゃなくて神社に行って神話のお話を伺うっていうのが素晴らしいですね。まさに五感で神話の世界を感じられる。

    後藤 話が終わった時に、次の授業があるから帰らなきゃいけないのに、子供たちが私の前に1列に並びまして、どうしたんだろうと思ったら、「宮司さん、サインください」って(笑)。とにかく神話を聴くと皆、喜ぶんですよ。

    葛城 誰しも神話の中に生かされていて、神話が日本人のDNAに刻まれていることが、とてもよく伝わってくるお話です。

    ジャーナリスト

    葛城奈海

    かつらぎ・なみ

    昭和45年東京都生まれ。東京大学農学部卒業後、自然環境問題・安全保障問題に取り組む。俳優などを経て、平成23年から尖閣諸島海域の実態をレポート。27年防人と歩む会会長、令和元年皇統を守る会会長にそれぞれ就任。他に元予備3等陸曹、予備役ブルーリボンの会幹事長。北朝鮮向け短波放送「しおかぜ」でアナウンスを担当。著書に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社新書)『日本を守るため、明日から戦えますか?』(ビジネス社)など。