2020年12月号
特集
苦難にまさる教師なし
  • 大阪大学適塾記念センター准教授松永和浩
感染症と闘った男 緒方洪庵の生き方に学ぶ

医は仁術なり

天然痘やコレラなど、幕末の日本で猛威を振るう感染症と闘い、医学史上に不朽の業績を残した蘭医学者・緒方洪庵。また、洪庵が主宰する「適塾」は、福沢諭吉や橋本左内など近代日本を代表する人材が数多く輩出した。医師として、教育者として、世のため人のために尽くしたその生涯と功績を、大阪大学適塾記念センター准教授の松永和浩氏に紐解いていただいた。

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感染症に立ち向かった幕末の偉人

現代のような高度な医療技術もなく、病原菌やウイルスの存在も知られていなかった幕末に、天然痘てんねんとうやコレラなど猛威を振るう感染症と闘った人物がいました。蘭医学者・教育者の緒方洪庵おがたこうあんです。テレビドラマ「JIN―仁―」でも取り上げられ、新型コロナウイルスが世界を席巻せっけんするいま、改めてその功績に注目が集まっています。

洪庵が1838年に大坂で開いた「適塾てきじゅく」では、西洋医学の研究をはじめ、種痘しゅとう事業やコレラ治療など医学史上の優れた業績が数多く生まれました。洪庵亡き後も、緒方家や門下生、医学界、経済界の方々によって保存活動が続けられ、1940年に大阪府の史跡に、翌年国の史跡に指定。1964年には国の重要文化財にも指定され、現存する我が国唯一の蘭学塾として、当時の姿を留めています。

私がその洪庵とゆかりの深い「大阪大学適塾記念センター」に勤めることになったのは2015年。大阪大学適塾記念センターは、大阪大学が創立80周年を迎えた2011年に開設され、主に洪庵・適塾生に関する研究活動や関係資料の収集・保全、社会教育活動などに取り組んできました。

私はもともと中世史、特に公武関係史を専門に研究していたこともあって、正直、洪庵について本格的に勉強し始めたのは現職に就いてからになります。しかし、その中で学問にどこまでも真摯しんしに取り組み、世のため人のために生涯をささげた洪庵の生き方に接し、次第にその偉大さに畏敬いけいの念を抱くようになりました。ただ、他の偉人と違って、洪庵には欠点が見えてこず、ちょっと近寄りがたいところがあるのも確かです。

大阪大学適塾記念センター准教授

松永和浩

まつなが・かずひろ

昭和53年熊本県生まれ。平成9年熊本高校卒業、大阪大学文学部入学。20年大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位修得退学。博士(文学)。22年大阪大学総合学術博物館助教、27年大阪大学適塾記念センター准教授。著書に『室町期公武関係と南北朝内乱』など。