2016年11月号
特集
闘魂
一人称
  • 人間環境大学教授川口雅昭

『吉田松陰 修養訓』
に学ぶ

「吉田松陰の生き方と言葉は、元気を失っている日本人に、大きな活力を与えてくれる」と語るのは、この度、弊社から『吉田松陰 修養訓』を上梓された人間環境大学教授の川口雅昭氏。同書に注がれた思いや、吉田松陰を学ぶ現代的な意義についてお話しいただいた。

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日本人としての誇りを呼び醒ましてくれる松陰

ここ数年、私は日本という国の未来を思い、心から心配になる時があります。

一昔前と比べて日本人全体、特に若者の間に自信のない、元気のない人間が増えているのです。彼らは自分一人が日々を漫然と、ただ面白おかしく過ごせればそれでいいと本気で思っています。しかし、それが人生に真の充実感をもたらすはずはなく、そういう若者が増え続けることは国家にとっても大きなマイナスです。そのことに考えが及ぶ若者が極めて少ないこともまた、私の不安材料の一つに他なりません。

20年、30年先に、いまの若者が日本を背負って立つようになった時、本当に日本は大丈夫なのだろうか、世界を相手に互していけるのだろうか。そういう懸念を抱きながら、このほど上梓した『吉田松陰 修養訓』(致知出版社)に私は特別の思いを込めました。松陰の生き方と言葉、そこから掴んだ私なりのメッセージを若者に伝えずにはいられなかったのです。

1億総白痴化と称されるいまのこの世相とは対照的に、幕末から明治にかけて、日本にも熱く滾る時代がありました。そこには勇気と気概に溢れた数多くの優れた若者がいました。その代表格が吉田松陰です。

私が松陰の書物に初めて触れたのは18歳の時です。同じ山口出身ということもあってか、とても波長が合うと感じました。以来、45年。松陰の研究一筋に生きてきてその当時の印象はいまも変わることがありません。どれだけ研究しても全く飽きがこないばかりか、学ぶほどにその深さ、大きさに触れて魅了される、心が浄められる、という感覚を覚えるのは私の場合、松陰ただ一人です。

つまり、いまの私にとって松陰は人生を教えてくれた恩師であるとともに、大変不遜な言い方をすれば同志であり、29歳の若さで刑死したという意味では30歳以上年の離れた〝後輩〟でもあります。いずれの立場であっても、その著書や言葉をとおして心を正しく導いてくれる掛け替えのない存在であることに変わりはありません。

全く私心というもののない松陰の生き方に触れる時、私は自分のあまりの小ささ、不徳を恥じて顔を上げることすらできなくなります。松陰はそういう私を、時に叱咤し、勇気づけ、そして日本人としての誇り、日本男児の生き方を呼び醒ましてくれます。

この感覚を若い世代にもぜひ味わってほしいというのが、長年松陰を研究してきた私の切なる願いでもあるのです。

人間環境大学教授

川口雅昭

かわぐち・まさあき

昭和28年山口県生まれ。広島大学大学院教育学研究科博士課程前期修了。山口県立高校教諭、山口県史編さん室専門研究員などを経て、平成12年より人間環境大学教授。編著に『吉田松陰一日一言』『「孟子」一日一言』。著書に『吉田松陰名語録』『吉田松陰』『吉田松陰 四字熟語遺訓』『吉田松陰に学ぶ 男の磨き方』『吉田松陰修養訓』(いずれも致知出版社)。