2024年3月号
特集
丹田常充実
対談
  • サラヤ社長更家悠介
  • ユーグレナ社長出雲 充

ソーシャルビジネスで
世界を変える

業界を牽引するリーダーに
学ぶ将の器、志の磨き方

SDGs(持続可能な開発目標)が掲げられて10年が経とうとしているが、我われは日常生活の中でどれほど意識した行動がとれているだろうか――。本業のビジネスを通じて社会課題を解決し、持続可能な社会の実現を目指すサラヤの更家悠介社長とユーグレナの出雲 充社長。ソーシャルビジネスの先駆者であるお二人に、未来を切りひらくリーダーに求められる胆力とは何か、語り合っていただいた。

この記事は約28分でお読みいただけます

本対談はサラヤとユーグレナ社、それぞれの本社がある大阪と東京をオンラインで繋いで行われた。

『致知』を通じてパイオニア同士が語り合う

出雲 更家さらや社長、画面越しですけどお目にかかれて本当に光栄です。きょうは『致知』の繋がりでお話しできる機会をいただき、こんな嬉しいことはございません。

更家 イベントやセミナーなどで何回かお目にかかってはいますが、こうして腰をえて話をするのは初めてですね。

出雲 そうですね。私にとって今月は『致知』月間とも言うくらい『致知』と関係性が強い月でして、私が東洋古典を教えていただいている田口よしふみ先生の新刊『「中庸」講義録』が致知出版社から発刊されて読んでいたところですし、2023年4月号の『致知』で対談されていた将棋棋士のよしはるさんと指揮者の小林研一郎さん、お二人の記事に本当に感動して泣いてしまって、昨日は久しぶりに小林研一郎さんが指揮するベートーヴェンの『第九』を聞く機会に恵まれました。そしてきょうは更家社長と対談をさせていただける。この日をとても楽しみにしていました。

更家 こちらこそ。私は出雲さんの講演を聞かせていただいたことがあるので、事業内容や経営方針などよく知るところで、本当に素晴らしい経営者だと思っています。

出雲 少し個人的な話になりますが、私がいま一番欲しい賞がありまして、それを更家社長が2つもお取りになっているんです。1つ目が「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞。主催の「人を大切にする経営学会」の会長であり、法政大学大学院元教授の坂本光司さんを大変尊敬しているのですが、坂本先生の審査って非常に厳しいじゃないですか。それを2023年の第13回で受賞されたということで、おめでとうございます。

更家 ありがとうございます。

出雲 2つ目が、2014年の渋沢栄一賞です。多くの企業設立に携わる一方で社会事業にも尽力した渋沢栄一の精神を現代に受け継ぐ企業経営者に贈られる賞ですけど、更家社長はヤシの実を事業の軸にマレーシアのボルネオ島で環境保全活動を、アフリカでは衛生改善活動をされている。先輩の後追いのようですが、私はユーグレナを軸にバングラデシュで栄養問題解決を目指して活動をしている。ですからきょうは更家社長の現在に至る過程をじっくりとお伺いしたいと思っております。

更家 出雲さんなら両方ともすぐに取れますよ。
私は大学時代、いまで言う農用微生物学、微生物を使った排水処理の研究をしており、そこでを研究していたんです。結局ものにならず、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校に留学したんですけど、ユーグレナ研究の第一人者である大阪府立大学の中野長久先生やユーグレナと同じくそうるいのスピルリナを研究されていた小川隆平先生などに教えをうてきました。
ユーグレナというのはご存じの通り、藻の一種でありながら動物的な性質を持っていて、光合成もするけれど自ら動くこともできる。植物と動物の中間の存在で、その栄養価の高さは1980年代から注目され研究が進められていました。ところが培養は非常に困難で、商業的にはうまくいかなかった。それを出雲さんが情熱と執念でものにされたんです。

出雲 いまお名前が挙がった先生方は私の師匠です。更家社長にご説明いただいたので話を進めやすいのですが、和名の「ミドリムシ」という名前から、よく昆虫などと勘違いされがちですが、ユーグレナは海藻と同じ藻類です。
いまのお話を伺い、更家社長も藻類を使って水を綺麗にすることを考えられていたと知り、近い分野で道を切りひらいてくださっている先輩として、改めて尊敬の念を深くしました。

サラヤ社長

更家悠介

さらや・ゆうすけ

昭和26年三重県生まれ。49年大阪大学工学部卒業。50年カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。翌年サラヤに入社し、取締役工場長に就任。55年に専務取締役、平成元年には日本青年会議所(JC)会頭を務める。10年に代表取締役社長に就任。世界での売上高は1千億円を突破。26年渋沢栄一賞受賞、令和5年に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 経済産業大臣賞を受賞。著書に『これからのビジネスは「きれいごと」の実践でうまくいく』(東洋経済新報社)『地球市民宣言』(日経BP)など。

環境問題への目下の挑戦

出雲 新型コロナウイルスが5類に引き下がり、経済活動が活発化していますが、サラヤさんはコロナで大きく業績を伸ばされましたね。

更家 うちは家庭用以外に医療や福祉、公衆衛生など業務用分野で洗浄剤・消毒剤・うがい薬等の衛生用品や食料品を扱っているため、おかげさまでコロナ禍に需要が急増しました。ただ、いまその反動が来ていて、投資分のお金の処理や在庫管理に奔走しています。
それから本業プラスαとして目下最大のテーマとなっているのが、ブルーオーシャンプロジェクトです。これはサラヤというよりも、私が理事長を務めるNPO法人ゼリ・ジャパンが中心に行っているもので、2025年大阪・関西万博でブルーオーシャンドームというパビリオンを展示する予定です。
大きなテーマは3つ、海のプラスチック汚染防止、海業うみぎょうをサステナブルにさせること、温暖化による海流の変化など海の理解を深めること。これは1社だけでなく皆で協力して取り組むべき課題ですので、万博をはじめ様々な場を通じて啓発しているところです。

出雲 ブルーオーシャンプロジェクト、非常に重要だと思います。私どものユーグレナの生産工場は沖縄県石垣島にあります。石垣島は日本最大のサンゴ礁があったのですが、温暖化の影響でほとんどが白化してしまいました。石垣島でユーグレナの培養をしている身として、これ以上温暖化が進むのを何とか止めなければいけません。
それでいま挑戦しているのが使用済みの食用油などのバイオマスを原料に使用したバイオ燃料、中でもバイオジェット燃料をつくることです。バイオ燃料の工場を2025年中にマレーシアにつくる予定です。海外で本格的にビジネスをするのはバングラデシュに続いてか国目となりますので、様々な国で社会貢献活動とビジネスを連動されているサラヤさんの取り組みに学ばせていただきたいと考えています。

更家 ぜひ今度うちの現場を見に来てください。
飛行機の燃料って膨大な量を使うじゃないですか。それに化石燃料は二酸化炭素の排出量も多いので、航空会社各社もカーボンニュートラル、持続可能なエネルギーを求めています。でも、実現するには莫大な量が必要になる。資本もその先のコスト競争力も必要ですし、なかなか難しい挑戦だと思いますが、日本だけでなく地球規模で大事な事業ですので、頑張ってほしいですね。

ユーグレナ社長

出雲 充

いずも・みつる

昭和55年広島県生まれ。東京大学農学部卒業後、平成14年東京三菱(現・三菱UFJ)銀行入行。17年ユーグレナ社を創業、代表取締役社長就任。同年12月に世界で初となる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー、第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。経団連審議員会副議長。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)『サステナブルビジネス』(PHP研究所)など。