2026年12月号
特集
住するところ
なきを
花と知るべし
対談
  • モスフードサービス社長中村栄輔
  • ドトールコーヒー社長星野正則

経営の道は
前進あるのみ

学び続け、変化し続ける

日本人の味覚に寄り添うメニューで成長を遂げてきたモスバーガーと、セルフ式カフェのパイオニアとして不動の地位を築いてきたドトール。それぞれ多くの人々に親しまれてきた人気店を率いる中村栄輔氏と星野正則氏は、共に創業者の薫陶を受け、社会の変化の中でその精神を守りつつ業績を拡大している。各々が経営に懸ける思いを縦横に語り合っていただき、成長を続ける会社の条件を探った。

【写真=左から中村氏、星野氏】

    この記事は約28分でお読みいただけます

    モスフードサービス社長

    中村栄輔

    なかむら・えいすけ

    昭和33年福岡県生まれ。57年中央大学法学部卒業。63年モスフードサービス入社。法務部長、社長室長、店舗開発本部長を経て、平成17年執行役員営業企画本部長。その後、常務取締役事業統括執行役員などを経て、28年社長に就任。令和8年日本フランチャイズチェーン協会副会長。

    ドトールコーヒー社長

    星野正則

    ほしの・まさのり

    昭和34年新潟県生まれ。58年亜細亜大学法学部卒業、ドトールコーヒー入社。平成12年取締役店舗開発本部長。20年ドトール・日レスホールディングス社長に就任。23年ドトールコーヒー会長を兼務。29年同社社長に就任。令和7年日本フランチャイズチェーン協会会長。

    共に創業者に仕えて

    星野 御社がこの大崎(東京都品川区)に本社を移されてから、お邪魔するのはきょうが初めてですが、想像以上に素晴らしいオフィスですね。受付の方に促されてドリンククジを引かせていただいたら、銀賞が当たりました(笑)。

    中村 面白いでしょ(笑)。実はそれ、私のアイデアなんです。試しに1か月やってみたら、お客様の緊張が取れて対話がとても弾むので続けてもらっています。当社はお店でもお客様とのファーストコンタクトを大切にしていますから、受付も温かみのあるものにしたいと考えて試行錯誤を重ねてきました。
    ちなみにこのクジは6人に1人の確率で当たるようになっていて、当たりクジの中にも金銀銅があって金や銀はなかなか当たらない。ですから、頻ひん繁ぱんにお越しになる方にも楽しんでいただけるんです。
    とにかく、目の前の方に喜んでいただきたいと考えて、いろんなことをやっているんです。

    星野 異業種交流会でお目にかかって以来の長いお付き合いですが、その頃から中村さんの遊び心といいますか、人を喜ばせようというサービス精神には感服しています。

    中村 その交流会に参加したのは、当社の創業者が急逝して2年後くらいでしたから、もう27年くらい前になりますね。星野さんとは、それぞれ創業者に仕えてきた共通点もありますから、やっぱりいろいろ通じ合うものがあります。

    星野 御社の創業者である櫻田慧さとしさんと、当社創業者の鳥とり羽ば博ひろ道みちも、随分長いお付き合いでしたしね。
    以前鳥羽から「僕は櫻田さんと100万円のコーヒーを飲みに行ったんだよ」という話を聞いたことがあります。櫻田さんがアメリカのホテルでものすごくおいしいコーヒーに出会ったというので、わざわざ飛行機代をはたいて一緒に飲みに行ったんだと(笑)。そういうお付き合いを重ねながら、お互いに切せっ磋さ琢たく磨ましてきたようです。

    全店で共有している基本方針

    星野 個人的な繋つながりばかりでなく、本部と加盟店との関係性においても、御社とは大変近しいものを感じています。
    以前、御社の加盟店オーナーさんの集まりであるモスバーガー共栄会の勉強会にお邪魔したことがありますが、お互いに切磋琢磨していいチェーンをつくっていこう、お客様に喜んでいただこうという皆さんの思いがひしひしと伝わってきて、モスバーガーさんが強い理由が分かった気がしました。
    中村さんは、「ここまで来るのは大変だったんですよ」とおっしゃっていましたね。

    中村 共栄会は、FCオーナーさんと一緒によいお店をつくるために立ち上げたものですが、創業者亡き後に少し原点を見失いかけた時期がありました。そこで私が営業本部長になった14年くらい前に、共栄会の役員さんたちと1泊2日で合宿をやったんです。
    事前に共栄会の存在意義は何かという質問を投げかけたところ、本部にもの申すばかりのいまの共栄会は問題だ。一緒にお客様のほうを向くことが大事だというご意見をいただいて、当日は侃かん侃かん諤がく諤がくの議論になりましてね。一緒にお客様に喜んでいただくよいお店をつくることが大事であり、そのよいお店の定義は、モスバーガーの基本方針を実践している店だという結論を得て、そこから一気によい方向に流れ始めたんです。

    星野 モスバーガーの基本方針とは、どのようなものですか。

    中村 当社の理念体系「モスの心」に、次の文言を掲げています。
    「お店全体が善意に満ちあふれ、誰に接しても親切で優しく、明るく朗ほがらかで、キビキビした行動、清潔な店と人柄、そういうお店でありたい。『心のやすらぎ』 『ほのぼのとした暖かさ』を感じて頂くために努力しよう」
    各店のスタッフさんは、コスチュームに着替え、この基本方針を読み上げてから、「さあ行くぞ」と仕事を始めるんですよ。社長室にも額装してあって、私は毎朝出社して神棚に手を合わせた後、基本方針を読み上げ、社長の覚悟を自問して一日をスタートします。

    モスバーガーの定番商品「モスバーガー」(左)、「テリヤキバーガー」