2018年10月号
特集
人生の法則
インタビュー①
  • 高倉町珈琲会長横川 竟

築き上げた信頼が
繁栄をもたらす

東京近辺を中心に現在20店舗を展開する新感覚グルメカフェ「高倉町珈琲」。創業者である横川竟氏は、「すかいらーく」を立ち上げるなど、日本の外食産業を牽引してきた立役者だ。かつて業界の底辺と目されていた外食を産業にまで発展させた横川氏に、経営者としての半生を振り返っていただきつつ、経営とともに人生を成功へと導くための法則を伺った。

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鍵を握るのは店長力

——横川会長は2008年に「すかいらーく」を退任してから5年後に高倉町たかくらまち珈琲を新たに創業され、傘寿さんじゅになられたいまも経営の第一線でご活躍されていますね。

実は高倉町珈琲を始める前に、世の中のためになるビジネスをやろうと、有機野菜のレストランや販売をしていました。ところが有機野菜は世間で言うほど商品がなくて、年間を通して売れないんです。これではとても商売にならない。
では他に何ができるだろうかと、改めてレストラン業界を見渡したところ、楽しい店がなくなってきたなと感じたんです。価格中心、つまり安く売るということにのみ重きを置き過ぎている。ディナーレストランといった高価格帯のところは別にして、1,000円前後で家族みんなが本当に楽しめるような店っていうのがないなと。

——それで高倉町珈琲を新たに創業されたと。

そう。「すかいらーく」「ジョナサン」に次いで、もう一度やってみようというので腰を上げたのが70歳半ばの時でした。僕自身、仕事しかできないからということもありますけどね(笑)。
もうすぐ81歳になりますけど、いまも店回りはもちろん、必要に応じて本部での打ち合わせや会議にも参加しています。原材料一品一品の価格などにはあまりタッチしないけど、細かい指示は結構出していますよ。
例えば、店舗の立地や建築、デザイン、商品構成、メニューブックに関しては、気づいたことは全部言ってます。というのも、我われはフードサービス業ではありますが、不動産業から建築業、メーカー業、それから調理業や販売業まで全部をやっている。何か一つやったら、他の部分は他の人がやってくれる業界ではないんです。
そういう意味では、積み重ねてきた知恵が価値をつくると言えるでしょう。

——経験が物を言うわけですね。

もっとも計画通りにやればうまくいくかと言えばそんなことはなくて、この業界では偶然という要素が非常に大きい。成功するためにはそれなりの準備が必要ですから、やるべきことはやるわけですが、ヒットするかしないかっていうのはやっぱり運ですよ。

——最後は運ですか。

その点、高倉町珈琲ではおいしい珈琲とパンケーキを売ろうと決めて、こだわって準備を進めてきました。例えば同じ水道水でも川の水と湧水の原水とでは水質だけでなく、消毒のための塩素の量まで違うんですよ。それなのに、どの店も同じ豆を同じ分量だけ使って珈琲を入れてしまうと、店ごとに味にバラつきが生じてしまうでしょう?

——確かにそうですね。

だからうちでは、どの店でもおいしい珈琲が飲めるようにと、店で使う水に合わせて珈琲豆の焙煎ばいせんからブレンド、量まで全部変える。そのためには、オープン前はどの店も3日くらいかけて必ず味合わせをしているんです。
そういったことを含めて、準備というのはどれだけお店に来てくださる人たちのことを考えられるかですよ。ただし、大衆価格が前提なので、品質を高めるにも当然限度がある。どこまでお金をかけられるかを見定めた上で、そこに歩み寄って素材を決めていく。そうやって、他社で売っているものよりどれだけおいしく、しかも安全にするかっていうことが、僕らの仕事なんですよ。
あとはとにかく、お客様のためになるものをつくり続けることと、そのために思想をまとめて目指すべき方向にきちっとかじを切れるかどうかですね。
そしてその時にポイントになるのが、店長力です。

——店長にかかっていると。

よそでは組織や仕組みが大切だと言っていますけど、それだけでは物は売れませんし、お客様だって納得しない。店長がお客様を、そして店舗で働くスタッフをどれだけ大事にできるかです。
もっと言えば、社長、店長、スタッフというつながりができていれば、思想統一もできるので、それがそのままお客様のために動ける仕組みにもなっているんです。だからうちは、きょうからこういうことをやろうと決めたら、すぐに全店舗で同じように舵が切れる。
少し強引なところがあるかもしれませんけど、それくらいしないとチェーンストアとして店のブランド価値を維持していくことはできないんですよ。

高倉町珈琲会長

横川 竟

よこかわ・きわむ

昭和12年長野県生まれ。長野県諏訪市立四賀中学校卒業後、修業時代を経て、37年ことぶき食品を設立。45年「すかいらーく」1号店となる国立店を出店。ことぶき食品から「すかいらーく」に商号変更。取締役、子会社ジョナス(後にジョナサン)社長、会長などを経て、平成18年「すかいらーく」会長兼最高経営責任者に就任。20年に退任後、25年高倉町珈琲1号店を東京八王子に出店。翌年、高倉町珈琲を設立し、会長に就任。