2024年9月号
特集
貫くものを
インタビュー
  • かみのやま温泉 古窯 大女将佐藤幸子

与えられた
運命を生かす

95歳の名女将が語る
〝不可能を可能に変えてきた道のり〟

創業73年、山形かみのやま温泉を代表する「日本の宿 古窯」。
こだわり抜いた地元の食材を生かした郷土料理、名峰・蔵王連峰を一望できる天空露天風呂、心を込めたおもてなしなどが評価され、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」にて、40年以上連続でトップ10を受賞している。
しかし、かつてはお金も水も電話もない、徒手空拳からの出発だったという。
幾多の苦労を乗り越え、不可能を可能に変えてきた創業者の佐藤幸子さんに、これまでの歩みと共に、古窯73年の歴史を貫いてきた精神について伺った。

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7月3日(水)、東京から新幹線で2時間半、山形かみのやま温泉を代表する旅館「古窯こよう」を訪れた。創業者で大女将の佐藤幸子さんは御年95歳。年齢を感じさせない軽快な足取りで私たちの前に姿を現し、何と3時間近くにわたって語り続けてくださったのである。

老いて輝く人と老いて衰える人の差

──実に若々しく、とても95歳には見えません。

まぁ本当にありがとうございます。ようこそお出でいただきました。

──大女将とお呼びすればいいですか?

ええ。よろしいですけど、大女将って言うと狼みたいで皆が怖いって(笑)。副会長という肩書も一応ついています。

──それにしてもお元気ですね。健康長寿のけつは何でしょうか?

規則正しく朝は6時に起きて夜は11時に寝ます。それから煙草たばこも吸わないし、お酒も飲みません。私は趣味がいっぱいありましてね。俳句だったり歌だったり、そして物書き。これまで計10冊のエッセイを出版してもらいましたし、大切な方には何かあるとすぐハガキを書いて出すの。
きょうの取材もいただいた質問項目を全部お答えできるように、このように箇条書きでしたためてきました。まるで生徒が試験勉強をするかのように(笑)。

──素晴らしい。この丹誠を込めた準備万端さが古窯70年の歴史を支えたのでしょうね。

そうかもしれません。とにかく何にもないから、考えないではいられなかった。自分でつくるより他に仕方なかった。
それで『致知』をネットで検索しましたら、「あなたを救った本」「人生のバイブル」「言葉のエッセンス」と出てきました。

──ご自分で検索された?

はい。昔はこういうことがなくて大変でしたけどね。『致知』はいままで知りませんでしたが、検索してかれて、素晴らしい本だなと。これからは私も毎月購読したいと思います。

──ありがとうございます。好奇心や感動する心のおうせいなところがかくしゃくたる所以ゆえんだと感じました。

あとは、お話しするのが好きだということでしょうか。時々おしゃをして友人とランチに出掛けたりするのですが、お洒落はその日会う人への思いやりだと思うんですね。前向き志向で楽しい目標を持っていると、老いてもあまり衰えず、輝いて生きることができるのではないでしょうか。

かみのやま温泉 古窯 大女将

佐藤幸子

さとう・さちこ

昭和4年山形県生まれ。県立米沢高等女学校卒業。26年義母から300坪の温泉つきの土地とからっぽの金庫をもらい、山形県上山市に7部屋の旅館を開業。持ち前の前向きさで創意工夫を重ね、業容を拡大すると共に、名だたる著名人が通う旅館に育て上げる。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」では、現在に至るまで40年以上連続でトップ10を受賞。52年東京・銀座に和食店「日本料理 古窯」を開店(令和2年閉店)。平成4年のNHK連続テレビ小説「おんなは度胸」(橋田壽賀子・作)のモデル。著書に『からっぽの金庫から』(ミリオン書房)『縁』(書肆犀)など。